まるで「波動方程式」が発動されたかのような3連勝だった。ソフトバンクに敵地で3連敗を喫してスタートした、中日の交流戦。その雪辱を晴らすかのように、本拠地バンテリンドームでロッテを3連破し、見事な巻き返しを見せた。
試合後、井上一樹監督は「ホームゲームの『波動』というものをやっぱり作っていった同一カード3連勝だった」と語り、地の利を生かしたチームの雰囲気作りが勝利に結びついたと強調した。
この「波動」という言葉に、スピリチュアルな響きを感じ取った向きは多かろう。そこで思い浮かぶのは、阪神で2020年から2022年まで指揮を執った矢野燿大元監督である。井上監督は2020年に1軍打撃コーチとして、2021年と2022年にはヘッドコーチとして、矢野体制を支えた。かつて中日でともにプレーした矢野元監督からの要請によるものだった。
矢野元監督は「独自の精神性」をチーム運営に取り入れていた。2022年4月、巨人戦の試合後には「文字職人にメッセージをもらった」と発言し、友人の文字職人・杉浦誠司氏が即興で詩を書いた「波」の色紙を披露。選手に「波に乗ること」の重要性を伝えた。オーストリアの心理学者アルフレッド・アドラーの著書を読んで傾倒し、その教えに大いに啓発された。春季キャンプでは「予祝」、つまり「まだ起きていない未来の成功を先に祝う」という思考法をチームに導入し、実際に監督の胴上げを行っている(その結果、優勝を逃したが)。
その矢野元監督のもとで3年間、現場に立った井上監督は、精神面を重視する采配哲学に直接、触れている。2022年のシーズン終了とともに、矢野元監督の退任に合わせて阪神を去り、翌2023年は解説者に。2024年に中日の2軍監督として現場復帰し、2025年から1軍監督に就任した。
井上監督が語った「ホームゲームの波動」は、スピリチュアルの文脈では「全ての存在が発するエネルギーの振動」。実際の試合展開やスタジアムの空気の流れを指す、比喩的な意味合いで用いられたのだろうが…。
中日はセ・リーグ5位に沈むが、井上監督が言う「波動」がこの先の戦いに、どこまでプラスの流れをもたらすのか。
(ケン高田)