社会
Posted on 2025年07月27日 10:01

ホントーク〈五味洋治×名越健郎〉(2)金総書記は叔父を焼き殺した!

2025年07月27日 10:01

名越 本書では、金正恩総書記や高容姫をはじめとして、これまで公開されていない写真も数多く掲載されています。高容姫の晩年の写真は、病気のためか険しい表情になっていますが、金総書記と顔がよく似ていることに驚きました。

五味 本では2人の写真を並べていますが、特に横顔がそっくりですよね。

名越 取材は大変だったでしょう。

五味 はい。高容姫が北朝鮮に向けて旅立った新潟港へ実際に足を運ぶなど、地道な調査を積み重ねて取材しました。

名越 実は高容姫と僕は同世代です。彼女が大阪にいた時期に、よく大阪に行っていました。鶴橋のあたりは、今も在日コリアンが多く暮らしていますけど、当時の話をしてくれる人はけっこういましたか。

五味 それが難しかったです。大阪には今も北朝鮮と韓国の対立が強く残っているためか、高容姫について証言したことが知られると、トラブルに巻き込まれるのではないかと警戒してしまうのでしょう。

名越 それでも最終的に高容姫の実像に肉薄できたのは、遠山(仮名)という人物の肉声を取れたことが大きかったですね。

五味 高容姫から見ると腹違いの兄です。彼の存在は以前から噂で聞いていました。ある学術雑誌で紹介されていたのを発見し、取材依頼をしていたのですが、なしのつぶて。思い切ってアポなしで自宅に行ったところ、話を聞かせてくれました。

名越 帰宅した時に偶然出くわして、声をかけたら自宅に招き入れてくれたのですね。あの描写は興奮しました。

五味 正直、私も驚きました。それ以来、徐々に信頼を得て、高容姫の住んでいた場所まで案内してくれました。今振り返ると、あの時に取材を拒絶されたら、この本は書けていないと思います。若い時、韓国人の記者から「北朝鮮について調べたいなら100人に取材しろ」と言われて、その言葉を胸に取材を進めたことが糧になったと思います。

名越 ところで、もし、長男の金正哲氏が政権を取っていたら、北朝鮮は今と違っていた可能性もあると思いますか。

五味 それはあります。

名越 金総書記は叔父で、自身の後見人だった張成択を13年に粛清し、焼き殺したと言われています。彼は高容姫と反りが合わなかったから粛清されたのですか。

五味 高容姫に悪い印象を持っていたのは確かです。「金正恩総書記に彼女を近づけるな」と言っていたと、証言した人もいました。

名越 北朝鮮の生みの親である旧ソ連では、裏切者は背後からピストルで撃たれました。いくら母親を悪く言ったとしても、叔父を焼き殺すのは尋常ではないですね。

五味 それが可能なのは現体制が盤石で、誰も逆らえなくなったからです。教育から社会システムまですべて統制されている今、内部から体制を転覆させるのは無理だと思います。

ゲスト:五味洋治(ごみ・ようじ)1958年、長野県生まれ。82年早稲田大学第一文学部卒。83年中日新聞入社、川崎支局、社会部、政治部を経て97年、韓国・延世大学に語学留学。99~02年ソウル支局、03~06年中国総局。08~09年、フルブライト交換留学生として米・ジョージタウン大学に客員研究員として在籍。その後23年まで東京新聞論説委員として勤務し退社。現在はジャーナリストとして活動

聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学客員教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。

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