社会
Posted on 2025年10月05日 06:00

“12年で患者数4倍増”マダニ感染症SFTS「4人に1人が死ぬ」恐怖

2025年10月05日 06:00

 マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の感染者が増えている。とくに今年は急増し、すでに過去最多の年を追い抜いた。それだけではない。高い致死率、感染地域の拡大、ペットからの感染、人から人への感染など懸念材料は多い。身近に忍び寄るSFTSについて考えた。

 今年のSFTS感染者は9月14日までに156人(速報値)が国立健康危機管理研究機構(JIHS)に報告され、過去最多だった2023年の年間134人を軽く超えている。SFTSは13年に日本で初めて確認されたが、年間の感染者数はこの13年間で4倍にも増加している(グラフ参照)。

 日本初の感染者は13年1月末に報告された山口県の50歳代の女性だった。前年の秋に発症し、入院中に死亡した。この13年から25年までに届け出のあった死者数は122人で、致死率は27%とかなり高い。SFTSは決して侮ってはならない感染症である。

 一般的にSFTSは、山野の草むらに生息するマダニに咬まれて発症する。マダニが媒介するため、アウトドアでは長袖、長ズボンでマダニに咬まれないように注意したい。治療は対症療法が中心だったが、昨年6月に富士フイルム富山化学の抗インフルエンザウイルス薬のアビガン(ファビピラビル)が治療薬として認可された。

 最初に中国で見つかり、11年にSFTSと命名された。中国国内では、それ以前から数百例が確認されていた。台湾、韓国、東南アジアでも確認されている。渡り鳥が感染源のマダニを運ぶとみられ、SFTSウイルスを保有した中国のマダニが渡り鳥の飛来で周辺各国・地域へと運ばれ、その一部が日本に入ってきたと考えられる。当然、感染の広がりの背景には、温暖化による環境の変化もある。日本で最初に感染が報告された13年ごろは、九州や中国地方など西日本での感染が大半だったが、西から東へと広がり、今年7月には神奈川県で関東初めての感染者が報告され、8月には茨城県や北海道でも感染者が現れた。

 SFTSウイルスを保有するマダニは1%以下だ。マダニに咬まれても感染する確率は低い。しかし、油断は禁物だ。ここ数年、ペットのイヌやネコから飼い主や獣医師が感染するケースが報告され、三重県で70歳代の獣医師がネコから感染して死亡していたニュースが、今年6月に報道された。感染者を診察した医師が感染するという、ヒト・ヒト感染も日本国内で初めて確認されている。人から人への感染は中国や韓国からも複数の報告がある。マダニに咬まれなくともSFTSの感染は成り立つ。SFTSはマダニ媒介以外でも広がるのだ。

 日本で初めて確認されたヒト・ヒト感染は、23年4月に山口県の病院で起きた院内感染だった。国立健康危機管理研究機構によると、20歳代の男性医師が救急外来で発熱症状のある90歳代の男性患者を診察。医師はその11日後に発症し、検査でSFTSウイルスに感染していることが判明した。

 その後、症状は回復した。医師にはマダニに刺されるような野外活動はなく、ペットも飼っていなかった。一方、患者はSFTSが疑われ、緊急入院して治療を続けたが、受診から2日後に死亡した。医師と患者からは遺伝子的に同一のSFTSウイルスが検出され、ヒト・ヒト感染と確定された。

 医師はNHKのインタビューに応じ、「診療時間は15分ほどだったが、患者は耳が遠く30センチほどの距離で会話をしていた。マスク以外にゴーグルなどはつけていなかった。検査結果を知ったときは驚いた。血液などに直接触れた自覚はないが、診察や亡くなったあとの処置の際に感染した可能性がある。まれなケースだと思うが、短時間の接触で感染することもあると知ってほしい」と話している。(今年9月17日放送)

 SFTSウイルスを含んだ感染者の血液や体液に無防備で接触すると、ウイルスが傷口や粘膜から侵入して感染する。体液(血液)感染だ。ヒト・ヒト感染した医師は、最初の診察で手袋を着けていなかったというから、触診時に患者の肌に付いた汗から感染した可能性がある。ゴーグルをつけずに顔を近づけて会話したともいうから、目の粘膜から唾液に含まれたウイルスが入ったのだろうか。インフルエンザや新型コロナのような、飛沫感染があるのかもしれない。

「体液(血液)感染」「傷口」「粘膜」で連想してしまうのが、エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)である。病原体のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は性行為でも感染する。性行為で傷ついた性器の粘膜から血液や体液に含まれたHIVが侵入する。SFTSウイルスも性行為で感染しないとは言い切れない。コンドームを付けていれば、エイズもSFTSも、そのほかの性感染症も防げる。自分やパートナーを感染症から守ることを忘れないでほしい。最後にこう強調して筆を置く。

SFTSとは
SFTSはSevere Fever with ThrombocytopeniaSyndrome(重症熱性血小板減少症候群)の略。病原体は新種のウイルス。このSFTSウイルスが感染者の血液などの体液に含まれ、それに接触して感染する。感染者の9割が60歳以上。発症すると、高熱が出て下痢、下血、嘔吐、けいれん、意識障害を引き起こすとともに血小板や白血球が減少する。致死率が27%と高い。

木村良一(きむら・りょういち)ジャーナリスト・作家。日本医学ジャーナリスト協会理事。日本記者クラブ会員。元産経新聞論説委員。著書に「日航・松尾ファイル」(徳間書店)のほか、「パンデミック・フルー襲来」「新型コロナウイルス」などがある。

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