ウイルスを持ったマダニに食い付かれることで発症する、致死的な感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の重症例や死亡例が相次いでいる。
香川県では5月7日、三豊市に住む60代女性がSFTSに感染して死亡。続く5月9日には、鳥取県でも鳥取市内に住む80代男性が農作業中にマダニに噛まれ、SFTSを発症して重症に陥ったことが明らかになっている。
高知県では年明けから6月16日までに、8人が感染。最多感染者数11人を記録した2014年を大きく上回るペースとなっており、全国的にも6月1日までに早くも56人の感染が発覚するなど、異例の大流行の様相を呈しているのだ。
マダニは目に見えないほど小さい家ダニなどとは違い、成虫の場合、体長が3ミリから8ミリにも達する大型のダニである。主に山野に生息しているが、ちょっとした植え込みなど、街中でも油断はできない。
赤色に近い茶褐色で丸みを帯びた尻を持つのが特徴で、人の皮膚で10日間近くも吸血を続けた結果、体長が2センチ前後にまで膨れ上がることがある。
その不気味な吸血マダニが媒介するSFTSの致死率は、最大で約30%。国立健康危機管理研究機構が公表したデータによれば、2013年3月から今年4月までの12年間における国内での発症件数は1071件で、そのうち117人が死亡しているのだ。
被害が集中しているのは主として西日本地域だが、東京都や神奈川県でも死亡例が報告されており、全国的な警戒が必要であることは言うまでもない。
さらに厄介なのは、SFTSに感染した犬や猫などのペットからもヒトにうつる、という点だ。
事実、国内ではマダニに食い付かれてSFTSに感染した犬や猫が死亡したケースとともに、感染した犬や猫に引っ掻かれたり、血液などの体液に触れたりすることで、ヒトに移るケースが報告されている。
三重県では今年5月、SFTSに感染した猫の治療を行った獣医師が呼吸困難などを訴えて緊急搬送され、数日後に死亡するという衝撃的な事例が発生した。
気温が上昇するこれからの季節は、マダニが活発に活動する時期と重なる。有効な治療法がないだけに、登山やハイキングやキャンプなどのアウトドア活動に際してはむろんのこと、自宅の庭の手入れをする際にも「できるだけ肌を露出させない」「ダニ除けスプレーを積極的に使用する」といった対策が不可欠になってくるだろう。
それでもマダニに食い付かれてしまったら、そのままの状態で医療機関を受診するのがベスト。マダニをつまんで無理やり引き剥がそうとすると、マダニの口器が皮膚内に残ってしまうことが、ままあるからだ。
(石森巌)