政治
Posted on 2025年10月27日 06:00

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~害悪を及ぼした公明党の「連立離脱」は日本にとって慶賀の至り~

2025年10月27日 06:00

 遂に公明党が連立を離脱した。40年にわたって外交官生活を送った筆者にとっても、まことに感慨深い。
 というのも「反戦平和護憲」を掲げ、特異な新興宗教を支持基盤とする少数政党が、日本の外交・安全保障に及ぼしてきた影響は甚大だからだ。戦後の日本政治史において、公明党は「中の下」と呼ばれる階層の票を、共産党と争ってきたと評される。「公明党がいたからこそ、日本の共産主義化が防がれた」「政権与党に入ることによって公約が現実味を帯び、支持母体も現実化してきた」との前向きの評価はありうるだろう。だが、そうした歴史的役割は終わりを告げた。

 むしろ政権与党の一極として、図体を上回る過剰な影響をもたらしてきたのは否定できまい。一例は、1992年に難産の上に成立した国連PKO法だ。
 湾岸戦争を契機に人的貢献の不足、法体制整備の必要に迫られた日本政府は、自衛隊の部隊が国連平和維持活動(PKO)に参加できるよう、前例のない立法作業に取り組んだ。私もその法案作成タスクフォースの一員だった。

「海外派兵を許さない」「いつか来た道を歩むのか」といった左翼陣営からの執拗な批判に晒された当時の日本政府・自民党は、公明党、民社党との「三党合意」をベースに、立法化に取り組まざるをえなかった。公明党との関係では、PKO活動にあたっての5原則(停戦合意の成立、受入国の同意、中立性、武器使用、これらの原則が崩れた場合の日本の部隊の撤収)を確認させられたのみならず、法律に書き込むよう強要されたのだ。

 国連平和維持活動に参加する他国の部隊は、ゲリラ等に攻撃された場合に、任務遂行のために部隊として反撃できる。こうした部隊としての反撃は、憲法9条が禁ずる武力の行使になりかねない、というロジックで認められず、個々の要員が正当防衛、緊急避難のためだけに武器を使用することが認められた。現場の自衛官の安全は二の次だった。

 そして、原則の前段4のいずれかが崩れた場合に、日本は「撤収する」という原則。こんな腰の引けたことを国際貢献のための法律に書かざるをえない、外交センスの欠如。現場の外交官の恥辱も二の次だった。いずれも、法案担当者を暗然とさせた。

 時は下って20年後。集団的自衛権を行使できるよう、第二次安倍政権が憲法解釈の変更を打ち出した時も、足を引っ張ったのは公明党だった。限定的行使の範囲をできるだけ狭め、日本の存立が危機にさらされた場合のみ行使が許される、とした「存立危機事態」の導入。公明党の介入なかりせば生まれなかった、机上の概念だ。

 結果として日本による集団的自衛権の行使は、個別的自衛権の行使とほとんど変わらないと指摘されるほど、手枷足枷をはめられてしまった。日米同盟の維持・強化、さらには国際平和と安全の維持のための積極的貢献は二の次だった。

 そして止めどない媚中ぶり。創価学会、公明党が中国共産党によっていかに利用されたかは、門田隆将氏との共著「媚中」に譲る。ここで指摘したいのは、岸田、石破両政権で顕著になった、中国におもねる外交姿勢、柔弱な対中外交の背景に、公明党が見え隠れすることだ。ミサイルを日本の海に撃ち込まれようが、「日本の民衆は火の中に連れ込まれる」と駐日大使に恫喝されようが、10歳の男児が惨殺されようが、北京詣でを続け、へらへら笑いながら写真に収まる鈍感力。日本国の領土と主権、国民の安全と矜持は二の次だった。

 こんな彼らの離脱によってようやく、そんな情けない外交から脱却する時が来たのだ。
慶賀の至りと呼ばずして、何と呼ぼう。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年に外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年に茨城県警本部警務部長を経て、09年に在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年に国際情報統括官、経済局長を歴任。20年に駐豪大使に就任し、23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)などがある。

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