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Posted on 2025年11月02日 18:00

「プロレスVS格闘技」大戦争〈猪木と同様の構えでルー・テーズは勝利した 本番を前にアリは3度もプロレスラーと対戦〉

2025年11月02日 18:00

 プロレスVS格闘技の最大の戦いは1976年6月26日、日本武道館で実現したアントニオ猪木とプロボクシング世界ヘビー級王者モハメド・アリの格闘技世界一決定戦である。

「今世紀最大のスーパーファイト」と謳われた一戦は、全米170カ所、カナダ15カ所、イギリス6カ所など、世界各国でクローズド・サーキット(劇場での有料中継)が行われ、テレビでは全世界で14億人に視聴されたという文字通りのスーパーファイトだった。

 しかし、プロレスVSボクシングは猪木VSアリ戦が初めてではない。フィスト・オア・ツイスト(拳=ボクシングか? 捻る=プロレスか?)」は格闘技ファンの永遠のテーマで、51年7月から52年9月までプロボクシング世界ヘビー級王者だったジョー・ウォルコットは、引退後にプロレスラーと他流試合を行っている。

 最も古い記録は59年7月4日、カナダ・サスカチュワン州レジャイナにおけるマッドドッグ・バションとのボクシングマッチ。これは異種格闘技戦ではなく、ボクシング形式として行われたためにウォルコットがTKO勝ちを収めている。

 ウォルコットは同年10月7日に、カナダ・ケベック州モントリオールで同地区世界ヘビー級王者のバディ・ロジャースと対戦。これはプロレスVSボクシングとして行われて、3ラウンドでロジャースが勝利した。

 猪木VSアリ以前で有名なプロレスVSボクシングは、ルー・テーズとウォルコットの異種格闘技戦だ。記録としてはテーズの2勝1引き分けとされているが、日付、場所に様々な説があり、正確なところはわからない。

 初対決とされているのは63年4月15日、テネシー州メンフィス。NWA世界王者だったテーズが4ラウンドで勝利。映像として残されているフロリダ州ジャクソンビルの試合は、筆者が把握している記録では66年9月29日だが、テーズは自伝で12月2日としている。

 映像を観ると、テーズの構えはアリと戦う猪木とそっくりで、ドロップキックをかわされ、片足タックルからアームロックに入ってもすぐにロープ・エスケープされてしまうが、両足タックルからマウントポジションを取って両腕を摑んでフォールを迫り、最後は両足タックルから逆片エビ固めの形でのアキレス腱固めで勝利。ウォルコットは試合後にテーズの控室を訪れて「私にケガをさせずに試合を終えてくれてありがとう」と感謝を述べたという。

 63年にはアメリカ武者修行中のジャイアント馬場が、元世界ライトヘビー級王者アーチー・ムーアと異種格闘技戦を行っている。公式記録は残っていないが「ニューメキシコ州アルバカーキでムース・ショーラックと対戦した時、特別レフェリーのムーアを巻き込んでしまい、翌週に同所で対戦したけど、体の大きさが違いすぎて楽勝だった」という馬場の証言からすると、記録が空白になっている63年3月4日だと思われる。

 歴代NWA世界王者でボクサーと対戦したのはロジャース、テーズだけではない。テリー・ファンクも76年4月1日にヘビー級ボクサーのハワード・スミスとスパーリングしている。これは猪木とアリが3月25日にニューヨークのプラザホテルで対戦に向けて調印式を行ったのを受けて、当時のNWA世界王者テリーが「プロレスラーとボクサーの対戦は可能なのか?」を試すために行ったものだ。

 そしてアリは、猪木戦に向けてプロレスラーと3回対戦している。まず6月2日、WWWF(現WWE)のペンシルベニア州フィラデルフィアのスポーツアリーナ大会を観戦していたが、ゴリラ・モンスーンVSマイケル・シクルナの試合後に私服姿でリングに飛び込んでモンスーンと番外戦。コーネル大学レスリング部主将だったモンスーンは、いきなりエアプレーンスピン。叩きつけるのではなく、そっと投げる感じだったが、アリにプロレスの痛みを教えるには十分だったようだ。

 8日後の6月10日にはAWAのイリノイ州シカゴのインターナショナル・アンフィ・シアター大会で、中堅クラスのケニー・ジャイ、バディ・ウォルフとボクシンググローブを付けての異種格闘技戦。ジャイ戦では片足タックルを踏みとどまってパンチ、クリンチから大外刈りのような形でテイクダウンを奪うというプロレスへの対応力を見せて最後はKO勝ち。ウォルフ戦ではシュミット流バックブリーカーを食らい、腰投げからアームロックを極められたが、蝶のように舞い、蜂のように刺す華麗なパンチの連打で流血させて勝利。

 こうしたエキジビションマッチ的な内容ならば、猪木VSアリも攻防のある好試合になっただろう。

 アリもそのつもりで来日したが、猪木が望んだのはエンターテインメント性を排除したリアルファイト。当時の「ショービジネスの日本のプロレスラーがアリと戦えるのか?」という世間の風潮に、猪木は反発して真剣勝負を挑んだのだ。

 結果はほぼ睨み合ったままの15ラウンド引き分け。当時は「世紀の凡戦」と酷評されたが、下手に動いたら一瞬で勝負が決まってしまう緊張感に満ちた試合は「あれこそ真剣勝負」と伝説の一戦になっている。

文・小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング」編集長として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)などがある。

写真・山内猛

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