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記事全文を読む→奇跡の脱北起業家〈第5回〉なぜ彼女は「平壌冷麺」と海を渡ったのか(4)もっと広い世界にいきよう!
2014年の暮れ、ヨンヒは張哲九平壌商業大学を卒業する。建設労働に駆り出されたため2年半も遅れた。それでも名門大卒の経歴を得たことはうれしかった。晴れやかな記念写真を撮り、同級生らと和気あいあいの卒業パーティーもやった。だが、北朝鮮に職業選択の自由はない。当局によって配置される。エリート層なら、能力に加えコネが決め手となる。
「江原道にある第一軍団の財政参謀が希望でした。軍のお金を管理する重要な部署で、平壌商業大の経理学部と、金日成総合大の政治経済学部を出た女性のみに限られていました。ワク(植民地時代に使われた日本語が残っている)が2つあり、私が行くはずだったのに金日成の抗日パルチザンで戦った闘士の孫とかが割り込んできたんです。もうひとつのワクは1年後に空くとのことで、私は未配置と呼ばれる宙ぶらりん状態のまま待つしかなかったんです」
不安と焦り、もんもんとするヨンヒ。その背中を押したのは祖母だった。平壌を訪ねてくるたび、切々と説いた。
「『ヨニちゃん、1年も待つなんてありえないよ。あしたもわからない国だから』。おばあちゃん、私を洗脳しちゃうんですよ。アハハ」
ヨンヒは吹っ切れた。もっと広い世界に生きよう─。もはや躊躇はなかった。決断してからの行動は早い。祖母は孫娘のため、ふたたび脱北ブローカーとひそかに連絡をとりあった。
「どうしてもおばあちゃんを連れて行きたかったけど、『監視がゆるくなってからじゃないと無理、追いかけるから』と。ママも『弟が軍隊から戻ってきたら行く』とのことでした」
深夜、だれにも悟られないよう脱北の準備を続けた。リュックに入れたいものだらけだが、そうはいかない。ヨンヒは大学入学祝いに祖母からもらった24Kのネックレスを手にしながら、思い出があふれてくるのだった。
鈴木琢磨(すずき・たくま)ジャーナリスト。毎日新聞客員編集委員。テレビ・コメンテーター。1959年、滋賀県生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒。礒𥔎敦仁編著「北朝鮮を解剖する」(慶應義塾大学出版会)で金正恩小説を論じている。金正日の料理人だった藤本健二著「引き裂かれた約束」(講談社)の聞き手もつとめた。
写真/初沢亜利
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