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記事全文を読む→伊藤匠・二冠が見せた「ライバル藤井聡太」への激情(4)最終局に散った棋士への夢
今回の「棋士の見る夢」で初めて女流棋士を取り上げた。西山朋佳女流三冠(30)は、福間香奈女流五冠(34)と並んで現在の女流棋界を牽引する存在である。実は「女流棋士」と藤井を代表とする「棋士」はプロ制度が違う。将棋連盟の棋士系統図には、女流棋士は載っていないのだ。女性で「棋士」になるためのハードルを越えた者はいまだにいない。
西山の師匠である伊藤博文七段(66)は、関西の名門・神田辰之助九段門下の流れを汲み、自分の弟子から棋士の誕生を祈願する。
西山にはこれまでに2度、棋士になる大きなチャンスがあった。プロへの最終関門・奨励会三段リーグは、「地獄のリーグ」と呼ばれる。半年かけて行われ、三十数人の中からプロになれるのは原則、上位2人だけ。西山はトップタイの勝ち星を挙げるも、3名が並んだため、順位差で次点に甘んじた。
その頃の彼女は、「味がわからなくても勝つために食べ、眠れなくても勝つために横になった」と話す。その3年半後に棋士編入試験の受験資格を得て、若手棋士の俊英が務める試験官5人と対戦した。2勝2敗で迎えた最終局に勝てば合格だったが、惜しくも敗退。その激闘の軌跡は拙著を読んでいただければ幸いである。
今作では他にも類のない「師弟ドラマ」を描けたと自負している。独創的な将棋で多くのファンを持つ山﨑隆之九段(45)は森信雄七段(74)の最後の内弟子である。山﨑は中学生棋士誕生を期待された俊英であったが、将棋が強くなりたい一心で、周りの人の感情に一切配慮ができない少年だった。
95年1月17日、兵庫県宝塚市にあった森の自宅は阪神・淡路大震災で被災した。多くの人々が命を失い、ライフラインも遮断されて避難所生活を余儀なくされる。森は近所に住む愛弟子の1人を建物の倒壊で失った。そんな中でも自分の将棋のことしか考えていない山﨑に、森は許しがたいものが込み上げて「破門」を言い渡す。実家の広島へと戻った山﨑は、「自分には人としての感情が欠けているのだ」と思い、ひとり苦しんだ。10代の青年が自己のアイデンティティと向き合い成長していく姿と、深い人間愛を持つ森との師弟ドラマは、将棋に興味がない人の心にも届くことだろう。
藤井がプロデビューして、この秋で10年。すでに全冠制覇を達成し、タイトル獲得数は歴代4位となった。だが、将棋界を盛り上げるためには、新たな棋士の登場が不可欠だ。伊藤匠が藤井からタイトルを2つ奪取し、タイトル戦常連の永瀬拓矢九段(33)も加えて、「三強時代」とも言われるようになった。そして新たに10代の棋士たちも次々にデビューしている。彼らの台頭が楽しみであるとともに、ベテランや中堅の奮起も願う。
これまで19組の「師弟」を取材してきた。今回でシリーズは一旦完結としたい。だが、これからも違った視点で将棋界を見つめていくつもりである。
野澤亘伸(のざわ・ひろのぶ)カメラマン・ノンフィクション作家。1968年生まれ。上智大学卒業後、写真週刊誌「FLASH」専属カメラマンを経て、フリーランスとして活躍。小学生の頃から将棋に親しみ、各種媒体で棋士の取材を行う。「師弟シリーズ」第1作で将棋ペンクラブ大賞を受賞。
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