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記事全文を読む→気になる著者に直撃!〈長井好弘〉2歩で昭和へタイムスリップ「末広亭」は時代を映す鏡だ!
「新宿末広亭 令和の定点観測」
朝日新聞出版/3300円
落語の聖地「新宿末広亭」に1年間通い詰めた演芸評論家の長井好弘氏。全73興行年間1232もの高座を見届けたことになる。本書は寄席の魅力を余すところなく伝える落語ドキュメントである。
長井氏にとって「新宿末広亭」年間全制覇への挑戦は今回で2度目だという。
「『1年間、全部の落語を見てみたい!』と思うのはファンの夢です。最初の挑戦は1999年。当時は新聞記者で、スケジュールの調整は大変でしたが、下町生まれで、子供の頃から落語好きだったこともあり、チャレンジしました。寄席は世間より時間の流れが緩やかで、数年ぶりに見ても、そうした変化は感じません。しかし、10年、20年単位で見ると、確実に変わっている。そのことを確かめたいと思って、再チャレンジしたんです」
長井氏は、24年10月から25年9月まで全73興行をすべて客席で鑑賞したが、25年ぶりに「新宿末広亭」に足を運んだところ、明らかな変化を感じたという。
「六代目・神田伯山さんの人気もあって、最近では興行によってはチケットが取れないこともあります。客席がガラガラだった頃を知るオールドファンからすれば、信じられない変化ですね。最近は寄席だけではなく、漫談、紙切りといった色物も充実してきました。歌手でお笑いタレントのタブレット純さんは、ネタの選び方も含めて、高齢のファンにも人気です。それから芸人の代替わりも多かったですね。昨年3月には『桂米丸追善興行』が開催されましたし、9月には『七代目三遊亭円楽 襲名披露興行』が開かれました」
東京には名物寄席がいくつかあるが、「新宿末広亭」を選んだ理由は─。
「普通の寄席興行を一番自然な形で見られるからです。末広亭は落語協会と落語芸術協会が交互に興行を行っているので、両方の演目を公平に見ることができます。あと、今年で築80年を迎える歴史ある建物も理由です。一部、手を入れられていますけど、建物そのものは、ほとんど昔と変わっていません。ロビーもなく、2歩足を踏み入れたら、昭和へタイムスリップできる。終わったあと、すぐ新宿の飲み屋街に行けるのもいいですね(笑)。そうした空気感も含めて、記録する意味があると思いました」
1年間通うと、芸人の意外な素顔も見えてくる。
「例えば『笑点』(日本テレビ系)の大喜利メンバーでもある春風亭一之輔さんは、とにかく寄席を休まない。一度、時間が合わず、本来の出番ではない前座の時間帯に高座に上がったことがありました。『前座の時間なら前座噺をやるしかないでしょう』と、前座噺を演じたんです。だからといって決して手を抜かず、その場でできる最高の芸を見せる。昔は柳家さん喬さんが寄席を休まないことで知られていましたが、一之輔さんも寄席を大事にする姿勢を自然に受け継いでいる」
本書の欄外にはその日の出演者、演目、座席なども記録され、巻末に芸人の索引があるのも味わい深い。
「1日の寄席だけでも20組以上の落語家さんや芸人さんたちが登場します。その中で『この人、おもしろいな』と思ったら、その人が出ている日を調べて実際に足を運んでみる。初心者でもマニアでも楽しめるガイドブックとしても活用してほしいですね」
〈原悟平〉
長井好弘(ながい・よしひろ)1955年、東京都生まれ。演芸評論家。79年、読売新聞社入社。編集局文化部、日曜版編集長、編集委員、落語会「よみらくご」企画監修などを務め、20年退社。現在は文化庁芸術祭実行委員、浅草芸能大賞専門審査委員などを務めている。
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