社会

東日本大震災「余震、いまだ止まず」(2-1)「土葬犠牲者」掘りおこし火葬までの100日悲話

 地面に掘られた穴の中に並ぶ棺。そのそばでむせび泣く遺族。大震災後の報道で、多くの人の目に焼き付けられた光景の1つが「土葬」だった。あれから1年。犠牲者のご遺体は、安らかに眠ることができているのか。その後を訪ねた─。

 土葬は法律上(墓地、埋葬等に関する法律)で、禁じられてはいないが、現在では衛生上の問題から条例や内規で土葬を禁止している自治体が多い。
 しかし、東日本大震災で未曽有の津波被害を受けた自治体では、多数の死者が出る事態となった。当時の被災地では、物流の停滞から燃料不足が深刻化し、火葬場の稼働能力が低下。しかも塩水につかった遺体は腐敗の進行も速かった。
 結局、苦肉の策として採用されたのが、すでに多くの自治体で廃れた土葬だった。
 とりわけ都道府県レベルで9512人という最大の死者が発生した宮城県(2012年3月7日時点)では、9市町で土葬を容認。2011年3月22日から亘理町と東松島市で最初の土葬が始まった。
 11年3月30日、記者は宮城県南部の亘理町にある真言宗智山派・観音院を訪ねた。大型トラックで運ばれた棺が陸上自衛隊員によって次々と降ろされていた。
 棺は遺体安置所から運ばれた身元不明遺体。すでに震災当日から2週間以上経過し、亘理町はその時点で損傷が激しい遺体は、身元不明のままでも土葬する方針に踏み切った。
 運ばれた棺は、観音院の敷地内に掘られた穴に地元土建業者のクレーンで次々につり下ろされていく。ひととおり棺が並び終わると、再び業者のショベルカーで土がかぶせられた。
 作業を見守っていた観音院の本郷正繁住職は、土葬には経験的な決まりがあると説明してくれた。
「従来の土葬は地表から6尺(約180センチ)掘って埋葬していました。これはかつては高さ3尺(約90.センチ)の座棺を使用し、死臭をかぎつけた野犬などに遺体を掘り起こされない深さは、棺上部から地表まで3尺と言われていたためです。ただ、今回は現在の平棺の高さと合わせて、深さは5尺(約150センチ)にしています」
 身元不明遺体は、検死番号と性別が記されたクイが墓標代わりとなる。
 この時、観音院の一角では、検死番号が記された大きな半透明のポリ袋が並ぶ中で何人かが黙々と作業をしていた。袋の中身は身元不明遺体の遺品。多くは検死時に剝がされた衣服だ。
 これらを住職の家族と町役場の職員が、水を張った桶の中で手洗いして土砂を落とし、さらに2槽式の洗濯機で2度洗いして乾燥させる。身元確認の手がかり用に保管するためだ。
 一方、境内にはすでに身元が判明しながら、火葬が間に合わないため、遺族が土葬に同意した遺体の墓地もあった。そこは丁寧に整地され、氏名、居住地区が記された木札をクイに打ちつけ、地面に挿してあった。
 観音院に土葬された遺体は身元確認済み108体。身元不明の遺体が19体であった。
 当時、本郷住職は、こう語っていた。
「仏教では死後2年目を三回忌としていますから、遺族の皆さんには、この時期に改葬してはどうかと話しています」

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