エンタメ
Posted on 2012年03月16日 10:54

70年代シネマ女優たち 秋吉久美子

2012年03月16日 10:54

 「新人類」という言葉は、バブル真っただ中の80年代に生まれたもの。しかし、それより10年以上も前に、大人たちの常識を超える少女がスクリーンに登場した。その名は──秋吉久美子。当時、流行した「コケティッシュ」という形容詞は、ただただ彼女のためだけに存在した。

泣きじゃくる秋吉を説得した
「ええっ! こんな子が俺とラブシーンやるの?」
 俳優・高岡健二(現在は建治)は、初めて顔を合わせた秋吉久美子(57)の若々しさに驚いた。秋吉は福島県いわき市の高校を卒業し、撮影時には19歳になっていたが、高岡の目には15歳くらいにしか見えない。それほど「純朴であどけない顔」だった。
「俺も慣れないラブシーンがあるし、本当はガチガチに緊張していた。しかも久美子と初めて顔を合わせてすぐ、お互いが上半身ハダカになってのポスター撮りだったから‥‥」
 その作品とは、かぐや姫のヒット曲をモチーフにした「赤ちょうちん」(74年/日活)である。71年からロマンポルノ路線に転じていた日活だが、同作の藤田敏八監督を中心に、年に何本かは一般向け青春映画を製作している。
 高岡が言うように、ポスターでは夕やけを模した赤い光に包まれ、2人が裸のままたたずんでいる。この撮影が秋吉久美子にとっての“初脱ぎ”だったが、高岡の記憶では実に堂々としていたという。また、あどけない顔だが、形のよい乳房には目を見張った。
 そしてポスター撮りが終わると、低予算映画のあわただしい日々が始まる。
「映画は貧しい2人の同棲を描いたものだけど、俺も久美子も新人だから同じような生活だったね。演じる役とダブって、お互い共感できていた。きついスケジュールだったけど、必死になって撮っていったよ」
 かぐや姫の「赤ちょうちん」では〈キャベツばかりをかじってた〉という印象的なフレーズがあるが、映画にも何度となくキャベツが映し出される。70年代の若者は、大半が貧しかったことを象徴している。
 日々の厳しいスケジュールが終わると、高岡は監督の藤田敏八、助監督の長谷川和彦らと毎晩のように新宿ゴールデン街へ出かけた。安い酒を酌み交わしながら演技論を戦わせ、そこには秋吉も必ず同席した。泥酔こそしないが、静かに杯を重ね、映画の現場を味わっていたという。
「でも1度、撮影所から泣きながら逃げ出したことがあったんだよ。探しに行くと、近くの田んぼにうずくまっているんだ」
 高岡たちが声をかけると、秋吉はこう叫んだ。
「本当は裸になんかなりたくないの!」
 ポスター撮りでは堂々としていたが、やはり、19歳の胸中は激しく揺れ動いていた。高岡は、泣きじゃくる秋吉を説得する。
「久美子‥‥さあ、みんなが待ってるから戻るぞ。それに『脱ぎたくない』って言ったって、ポスターではちゃんとできたじゃないか」
 ようやく秋吉も折れ、以降は支障なく撮影が進んだという。
 さて物語は、何度も引っ越しを重ねるうち、秋吉演じる幸枝は精神に異常をきたしてしまう。鳥アレルギーであることから端を発し、2人の間に子供をもうけながら、奇行を繰り返す‥‥。虚無的な表情ながら、何をしでかすかわからったのが初めてだったけど、気品と色気を兼ね備えているという印象。当時の若手女優としては、小悪魔的な魅力はピカイチだったね」
 三木は、そんな秋吉を生かすにはどうしたらいいかと、これまでの出演作をつぶさに観た。秋吉が注目された三部作を演出した藤田敏八は、三木と「俳優座」時代の同期であり、一時は同じ下宿に住んでいた。
 三木は、さすがに藤田は女優の生かし方をわかっていると感心した。秋吉は「歩き方」と「泣き方」の2つに魅力があったのだ。
「すごく可愛らしく見えるように『酔っぱらって歩いている』って場面を入れてみたりしたね」
 三木によれば、女優としての演技力が突出しているない──それは秋吉自身のイメージとしても定着することになった。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2025年03月23日 05:55

    胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月18日 05:55

    気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月25日 05:55

    急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2025/7/22発売
    ■620円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク