社会

秋津壽男“どっち?”の健康学「“モノが覚えられない”は認知症と関連なし。不要な情報は「断捨離」でリフレッシュせよ」

20160602h

 皆さんは老いを感じる瞬間はどんな時でしょうか? 例えば、これまでスタスタと上がっていた階段で息切れした時や、尿のキレが悪くなった時など、体の衰えや異変から年齢を意識する人は多いでしょう。

 その一方で「昨日のランチは何食べたっけなあ」とモノ忘れがキッカケの人も少なくありません。さらに言えば、「取引先と名刺交換したけど先方の名前が全然覚えられない」と覚えの悪さを自覚する人もいます。

 いずれも脳の衰えから年齢を実感するケースですが、ここで質問です。「モノ忘れ」と「モノ覚え」の悪さのどちらが、認知症の兆候と考えることができるでしょうか?

 まず、モノ覚えについてお話ししましょう。一般的に加齢とともに記憶力が落ちると考えられがちですが、最近の研究では「脳の能力は衰えない」という事実がわかってきています。モノ覚えの悪さは記憶力の低下ではなく、興味や必要性を瞬時に判断していると言われています。

 つまり、脳の前頭葉にある海馬という部位が「これ使わない情報だから必要なし」と、情報を取捨選択しているのです。

 しかも、現代は情報社会です。現代人が1日に受け取る情報量は飛躍的に増加しており、もはや脳の記憶力をはるかに上回る情報量を浴びながら生活しています。

 そうなると、必然的に脳は大半の情報について「これ以上は覚えきれない」と情報をシャットアウトしてしまいます。つまり我々の脳は常にオーバーキャパの状態で、よほど意識的に覚えようとしなければ記憶に定着させることはできません。

 そうした情報化社会で、はたして交換した名刺の名前まで覚える必要があるのでしょうか。政治家ならまだしも、普通の人は全部覚える必要などありません。

 受験勉強や各種資格を取る際に、モノ覚えが悪いとトレーニングの必要がありますが、状況や情報に応じて取捨選択するのが不可欠な戦略です。

 例えば、アイドル好きの若い人が運転免許を取るとしましょう。交通ルールを覚えることは不可欠ですが、AKB48の推しメンに関する情報は、一度シャットアウトすればいいだけのこと。

 つまり、その時々に応じて「頭の中で優先順位をつければいい」わけで、モノ覚えが悪くとも、普通に社会生活ができれば何ら心配はありません。

「モノ覚え」の悪さは、加齢のせいではなく、情報化社会に対する脳の戦略の一環と捉えることもできます。これからの時代はモノだけでなく情報も「断捨離」が必要な時代と言えるかもしれません。

 逆にモノ忘れが増えていくのは、定着していた記憶が壊れていくことです。隠れ脳梗塞などで脳内メモリーが破壊され始めている可能性があり、進行すれば認知症などの危険性も生じます。

 設問の答えとしては、モノ忘れが、病気のおそれがあるので注意が必要です。症状が気になるようでしたら、一度、専門医に相談したほうがいいでしょう。

 では、最後に質問します。

「昨年の流行語大賞は何でしたか?」──こう聞かれて思い出せずとも、まったく心配ありません。なぜなら、このクエスチョンは「モノ覚え」を確認するための質問であり、「モノ忘れ」を問う質問ではないからです。

 モノ覚えとモノ忘れ、両者の境界線は「生活するうえでの必要性」と考えてください。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

カテゴリー: 社会   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    「王座戦」初防衛に王手をかけた「鬼神・藤井聡太」の勝利の方程式は「パイナップル・キノコ抜き・室温20度」

    いくら漫画でも、こんな展開は描けない。将棋の第72期王座戦5番勝負第2局が9月18日、名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルで行われ、午前9時の対局開始からわずか30分で76手まで進む「AI超速将棋」を藤井聡太七冠が制して2連勝。王座戦初…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
「ふくよか巨大化」ギャル曽根に限界説浮上もテレビ業界が手放さない「絶対根拠」
2
高木豊が怒り爆発の猛抗議!楽天・今江敏晃監督「1年でクビ危機」にファンと激突
3
これは橋本環奈の「黒歴史」になる!「おむすび」からもう離脱して「あんぱん」を待ち望むガッカリ感
4
毛利元就に仕掛けたクーデターが大失敗!遺骸を谷底に叩き落とされた武将
5
それがどうした!弘兼憲史のラクラク処世訓「長寿の祝いはプレゼントや家族旅行よりも自宅での食事会をお勧めします」