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事件直後に消えた男の消息
ここでは、“疑惑の隣人”を仮に釜田和夫としておこう。現在は60代になっている。事件当時は40代ということになる。身長は170センチ前後だが、体つきはガッチリしている。前科もあり、服役経験がある。冒頭のように、初対面の人間に包丁を突きつけるような粗暴なふるまいをすることは、円山町の人間は皆知っていた。
そして、私が釜田を怪しんだのは、それだけではない。釜田は被害者と接点があったのだ。
複数の証言を総合すると、こうなる。被害者が売春で得た小銭を1万円札に逆両替していたことは事件当時から報じられていた。その被害者が逆両替に訪れた居酒屋「K」とラーメン店「S」を釜田は利用していた。事件当時、現場の最寄駅である京王線神泉駅は駅舎改良工事が終了したばかりだった。その工事現場で働いていた作業員がいなくなり、飲食店や風俗店は不景気風が吹き始めていた。風俗嬢やぽん引きなどが暇つぶしに集まったのが、「K」や「S」であり、そこにたむろしていたのが釜田だった。
そこで、釜田は被害者が夜毎、街角で男を誘っていることを知った。釜田の知人が被害者と“関係”を持ったのだ。そして釜田の仲間内で被害者を「Nちゃん」と呼び、「Nちゃんは大金を持ち歩いている」と評判になっていたというのだ。
97年3月7日に、近隣のバーのママは釜田とおぼしき男と被害者が言い争っていたと証言した。
「『金を返せ』とか『よこせ』とか、男があの女に怒鳴りつけていた。以降、あの女の姿が見えなくなって、警察に捕まったのかと思っていたら、アパートで殺されていたというんでね、びっくりしましたよ」
また、冒頭に記したように、釜田も事件直後から円山町から姿を消していた。私が調べたかぎり、その間の釜田は荒川区内の実家に潜伏していた。なぜ、潜伏かと言えば、この期間に釜田は居住していない多摩市に住所を転居していたからだ。ゴビンダ元被告が無期懲役確定後、再び円山町に姿を現した。すぐに12歳年上の女性と結婚し、姓と本籍を変えていた。
その尋常ならざる足跡が疑惑を強くしていた。しかも、冒頭の包丁騒動以降、私の行動を監視していた。私が接触した人物に、「あの野郎は、俺の何を調べているんだ」
と聞いて回り、「話すな」と念を押していたのだ。
その後、釜田は奇怪な行動に出ていた。私に協力してくれた人々から、こんな情報が入ったのだ。「飲食店で吸ったタバコの吸殻をビニール袋に入れて持ち帰っているんだよ」
まるで、DNAの採取を警戒しているかのようだった。何より、私が疑惑を深めたのは、事件当時の釜田が被害者の定期券入れが捨てられていた場所に足を運んでいたことだった。
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