芸能

80代からが人生の黄金期だ「八名信夫」(3)地震被災者から水が届いた

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 支援の対象は東北だけではない。作品完成後の昨年12月、新潟県糸魚川市が大火に襲われた。上映会場では「被災地に売り上げから寄付します」と呼びかけ、作品のDVDを2000円で販売。先月、現地・糸魚川に義援金を届けた。

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 来年は、(昨年4月に)地震の被害を受けた熊本県の人たちを応援するために映画を作ろうと考えています。

 熊本にお金を落とせるように、撮影地だけでなく、出演者も熊本県の人たちをオーディションで選びたいと思っています。

 地元の演劇関係者にも声をかけていますが、映画や芝居とは関係のない人にも出てもらうつもりです。役柄の職業に実際就いている人は、ちょっとしたしぐさや雰囲気がリアルなんです。

 主人公の孫娘が嫁ぐ披露宴のシーンは、地元・五箇山をはじめ、全国から集まったエキストラに参加してもらいました。俳優ではないので、演技は要求せずに「自分の孫、あるいはよく知っている近所の娘さんの披露宴だと思って自由にやってくれ」とだけ言ったんです。そうしたら本当に自由にやってくれました。皆さん、カメラの位置なんか気にしない。花嫁の前から動こうとせずに話し込むのもいれば、他の客との名刺交換にいそしむ連中もいました(笑)。でも、昔の地方の結婚式なんていうのは、どこもそんなものだったんです。おかげでいいシーンになりました。

 そのシーンを撮り終えた直後に熊本の地震が起きたんです。熊本出身の女性も3人いたので、心配になり連絡を取ろうとしたのですが、電話が通じない。1カ月ほどたち、やっと連絡が取れました。3人のうち2人は電話口で泣いていました。当然ですよね。でも1人だけ、「そんなもん平気よ!」と、やたらと明るいおばさんがいました。住むところもなく、自動車の中で寝ているような状況なんだから、平気なわけないんですけどね。

 そのおばさんが、後日、まだロケを続けている我々のために、地元の水を送ってきてくれたんです。これには心底参った。何よりも水を必要としているはずの人が「うまい水だから飲んでくれ」と送ってくれる。感動しましたね。彼女たちのためにも、楽しい作品を作りたいです。

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 80歳を超え、監督という肩書が加わった八名だが、自身には格別“新たな挑戦”という意識はないという。

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 監督とはいっても映画に関わる仕事ですから、自分にとって特に新しいことだとは思っていません。

 今まで映画のロケやテレビの仕事で、全国各地のいろんな仕事に就いている人たちと話をしてきました。その人たちに教わったことが、80歳を超えた今、自分の糧になっている気はします。それが、被災地の人たちに喜んでもらえる映画を作りたいという気持ちにつながっているんでしょう。

 70歳くらいの時だったと思いますが、旅番組のレポーターの仕事で、日本一の長寿の村として知られる沖縄県大宜味村を訪れたとことがあります。現地で80代のおばあちゃんたちにインタビューする機会がありました。旅番組では定番のシーンですから、特に意識することなく、「おばあちゃん、元気だね」とか「どうしてそんなに長生きできるの?」といった当たり前の会話や質問をしました。そうしたら、その中の一人に「ただ生きてたってしょうがないよ。人の役に立つ生き方をしなきゃいかん。それが長生きの秘訣だ」と言われたんです。その時はこたえました。決して怒り口調ではなかったのですが、「レポーターでござい」みたいな顔で、くだらない質問をしている自分を見透かされた気がしたんですね。

 そのあと、「食っていけ」とゴーヤチャンプルを山ほどごちそうしてくれました。あまりうまくはなかったんですが(笑)、すごいおばあちゃんがいるもんだと思いました。

八名信夫:1935年、岡山市生まれ。明治大野球部から東映フライヤーズに入団。現役を引退後、東映に入社。悪役中心の役者として脚光を浴びる。83年に俳優仲間と「悪役商会」を結成。現在に至る。

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