女子アナ

女子アナという生き方~連載第5回 松井みどり 「ドーハの悲劇の現場はまるでお通夜のようでした」

 元フジテレビの松井みどりは、女性スポーツキャスターの先駆者として活躍。手探り状態から、女性初のプロ野球中継のキャスターとして抜擢された、いわば「パイオニア」である。男性社会だったスポーツの世界で、孤軍奮闘してきた足跡を初めて明かした──。

入社して赤ワイン好きに…

 女性アナウンサーにおけるプロ野球中継のパイオニアとして、一時代を築いた松井みどり(44)。現在、ナレーターとして活躍する他、舞台女優としてもその才能を発揮するなど、マルチな活躍を見せている。
「アナウンサーになったきっかけは、日本と外国をつなぐような仕事をしたいと思ったからです。横浜市立大学で国際関係課程にいたのですが、そこで学ぶうちにその思いが強くなりまして、アナウンサーの採用試験を受けました」
 当時はアナウンサー最盛期。今よりも倍率はもっと高かった。松井が入社した当時、若手の女性アナウンサーがアイドル的な人気を博し、いわゆるアナドルが登場しだしたのもこの頃。学生を対象にしたアナウンサー養成所なるものも多く設立されたのだが、松井はそういうところを経ずにフジテレビに入社した。
「女子アナになった当時、周りには養成所に通っていた人もいましたが私は違ったので、今までまったく気にしていなかったアクセントなどの技術的なことを習得するのが大変でした。周りもそういう環境なので、おかしな話し方をするとすぐ注意をされるんです。こんなことがありました。ある時アナウンス室にスイカの差し入れがあって、私がいちばん下っ端だったのでスイカを切ることになったんです。その時に『包丁ってどこにあるんですか?』と聞いたのですが、その〝包丁〟のアクセントが少し変だったんですね。その時にアナウンス室にいた全員が私に『包丁!』って正しいアクセントで突っ込んできたんです。そのことを鮮明に覚えています。そのくらい日常的な言葉から直されました」
 入社して初のレギュラーは「FNN朝駆け第一報!」という朝の情報番組だった。
「初めてカメラの前に立つのでそれなりに緊張もしました。毎日仕事をこなすのに必死でしたね。視力の弱い私は常にコンタクトをしているのですが、一度コンタクトを忘れたことがあって、視力が0・03だから原稿を読むこともできない。しかたなく眼鏡でテレビに出演しました。その時の眼鏡がデザインもやぼったいもので、あとでいろいろみんなに突っ込まれました。上司にもからかわれましたね」
 今でこそ〝メガネっ子萌え.〟などと眼鏡女子がもてはやされているが、当時はむろん、そんな甘えは許されなかった。そんな厳しい新人時代に尊敬する先輩と一緒に仕事できたのは大きな宝だ。
「尊敬するアナウンサーは城ヶ崎祐子さんと益田由美さん。おふたりともお仕事のジャンルは違ったのですが、それぞれすばらしい仕事をされていて、プライベートでも飲みに連れて行ってもらいました。当時のフジテレビは新宿・河田町にあって、〝フジテレビ下通り〟という通りがありました。そこに仕事終わってよく飲みに行きましたね。基本的にアナウンス室の女性はみんなお酒が強かった。城ヶ崎さん、益田さん、吉崎典子さん、阿部知代さんなどそうそうたるメンバーの方と一緒に飲みました。当時私はワインは白しか飲んだことがなくて、先輩に『松井、何飲む?』って聞かれて、『ワインの白お願いします』と言ったら『松井、大人の女は赤なのよ』とおっしゃって『え! そうなんですか!』と衝撃を受けて、それからワインは赤が好きになりました(笑)」

女子初のプロ野球中継を経験

 こうして、「FNN朝駆け第一報!」から「おめざめ天気予報」、「あなたの東京」を経て、いよいよ彼女の本領発揮となるスポーツ番組の担当となる。むろん、松井自身もスポーツは大好きだ。
「私自身も中学はバドミントン部、高校はフェンシング部でインターハイまで行きました」
 松井みどりを語るうえで欠かせないのが、フジテレビ女子アナ初のプロ野球実況中継だ。他にもゴルフ中継など、スポーツ系女性アナウンサーとして大いにその手腕を発揮する。 「大学が横浜だったので、まだ大洋時代だったベイスターズの応援に横浜スタジアムまで行きました。その時、平松政次さんが解説をやっていらっしゃったのですが、のちにお仕事でお世話になるとは、その時、夢にも思いませんでした」
 野球担当に抜擢され、スタジアムに通う日々。仕事以外にも、空き時間ができたらマメに通っていたという。というのも、松井自身はアナウンサーとしてゲームはもちろんのこと、現場の熱い雰囲気を視聴者に伝えたいという思いが強かったからだ。だが、当時は野球の女性アナウンサーが少なく、手探り状態。そんな中でお世話になったのが元TBSの香川(現・田口)恵美子さんだ。
「香川さんには本当に感謝しています。ラジオでも実況されていて、とても気さくでステキな方。現場で親しくさせていただきました。いろいろ知らないことを教えていただき、本当に勉強になりました」
 今まで数多くのスポーツの名場面を目の当たりにしてきた彼女だが、特に印象深い出来事を尋ねてみた。
「93年のサッカー〝ドーハの悲劇〟ですね。目の前で観たのですが、一瞬何が起こったかわかりませんでした。そのあとの現場はお通夜のようでした‥‥。ゴールキーパーの松永成立さんが放心状態でフラフラと取材陣の真ん中を突っ切ってバスと反対の方向に歩いて行っちゃって、スタッフに慌てて引き止められるという出来事もありました。そのぐらい選手もショックを受けていました。記者の誰も、何も聞けない状態で‥‥。スポーツ記者をやっていて、いちばん印象深い出来事です」

舞台を通じて夫と出会った

 反対に、いちばんよかったことは?
「94年の巨人対中日の10・8決戦ですね。実はこの試合はプライベートで観に行ったのですが、始まる前から異様な雰囲気。元バドミントン選手でスポーツジャーナリストの陣内貴美子さんと観ていたのですが、2人でエキサイトしながら観戦しました。物凄い試合でした。
 好きな選手ですか? ステキだなと思うのは広島の前田智徳さん。92年に東京ドームで行われた対巨人戦でのことですが、北別府学さんの200勝がかかった試合の時です。センターフライが上がって前田さんが突っ込んだら後逸してしまい、北別府さんの勝利投手の権利がなくなってしまったんです。でも、あとの攻撃で前田さんが逆転ホームランを打ってゲームは勝ちましたが、彼はヒーローインタビューには現れませんでした。『北別府さんに申し訳ない』と涙したんです。そのシーンを見た時、プロの世界で闘う男の姿を目の当たりにし、厳しさを思い知らされました。まるで武士のような人だなと。個人的にはお話ししたことはないのですが、以来、前田さんのファンになりました」  スポーツを通じて数多くの感動に出会った松井。06年に16年在籍したフジテレビを退社してフリーになった。現在、テレビ番組のナレーターなどを務める他に、舞台女優としても活動している。
「舞台を始めたきっかけはフジにいた時の上司の知人が舞台関係のお仕事をされていて、その御縁でやらせていただくことになりました。実は私、今年の6月に結婚したばかりなのですが、夫と知り合ったのも舞台がきっかけ。同じ舞台で一緒に共演したのが、なれ初めなんです。結婚を決めた理由は、何でも本音で話し合えること。本当によくしゃべる夫婦なんです(笑)」
 松井がフジテレビにいた頃は、野球選手と結婚する女子アナが多かった。そのことを聞いてみると、
「『女子アナはミーハーだから』と思われがちですが、あれは本当に職場結婚のようなものだと思います。木佐彩子さんや荒瀬詩織さんなどもそうだったけど、球場に行く機会も多い職業ですしね。彼女たちも凄く真剣に交際していたし、はたから見ていても、ほほえましい子たちばかりでした」 後輩を見つめる目にも優しさがあふれる松井。そんな彼女にとって女子アナとは?
「代えがたい、さまざまな経験を与えてくれたもの。今、ナレーターや女優として舞台に立っていますが、その基礎になったのが女子アナの経験です。これからもそのことを大切にしたいし、感謝していきたいですね」
 プロ野球中継を通じて、彼女が我々や後輩の女性アナウンサーに与えてくれた感動は大きい。彼女の今後の活躍が楽しみだ。

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