日本は世界有数の地震国である。にもかかわらず、国内旅行やビジネス出張などで旅館やホテルを利用する際、自分が宿泊する施設の「耐震性」を気にかける日本人は、意外に少ない。
宿泊施設の耐震性への関心の低さの背景にあるのは「大半の旅館やホテルは、現行の耐震基準を満たしているはずだ」という思い込み。しかし実際には、耐震性の乏しい危険な旅館やホテルは、数多く存在している。
国は2013年に改修耐震促進法を改正し、大規模な旅館やホテルに対する耐震診断の実施と、診断結果の自治体への報告を義務づけた。ところが改正法は「耐震性に問題あり」と診断された施設に対する耐震改修までは義務づけておらず、地震で倒壊する恐れのある旅館やホテルが事実上、野放しにされてきたのだ。
これがいかに由々しき状況であるかは、現行の新耐震基準以前の旧耐震基準で建てられた建物の脆弱性を見れば、明らかである。
ザックリ言えば、1981年の建築基準法改正以前に建設された建物の場合、建物の中にいる人間の安全が保証されるのは「震度5程度」の揺れまでとされている。要するに震度6以上の地震が発生すれば、建物の下敷きになってしまう危険性が極めて高いことになる。
旅館やホテルが施設の耐震性に関する情報開示に消極的であることも、問題をさらに厄介にしている。筆者もレジャーやビジネスで旅館やホテルをよく利用するが、宿泊予約サイトはもとより、施設の公式サイトでも、施設の竣工年や耐震性についての記述を目にしたことはほとんどない。まさに情報弱者状態なのだ。
この点は、大手ホテルチェーンが既存の古いホテルを買い取り、名称を変えてオープンさせた「リブランドホテル」にもあてはまる。有名なホテル名が冠されていようとも、耐震改修が行われていない限り、躯体自体は旧耐震基準のままである。
ならば、どうすればいいのか。旅館やホテルの耐震性が不明な場合、筆者が必ず実行しているのは「電話による問い合わせ」だ。この時、耐震改修の有無も含めて曖昧な回答に終始した場合は、絶対に宿泊しないことに決めている。
宿泊中に地震で死にたくなければ、施設の耐震性を事前にチェックすべし、である。
(石森巌)