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「第67回夏の甲子園」のちの“大魔神・佐々木”に挑んだ無名の公立高校

 桑田真澄&清原和博(ともに元・読売など)のPL学園(大阪)“KKコンビ”が最後の夏の甲子園を迎えた1985年第67回選手権大会。この年、創立わずか3年目で甲子園初出場を果たした無名の公立校が快進撃を見せ、大会を盛り上げていた。滋賀県代表の甲西である。

 2回戦からの登場となった甲西は、まず名門の県岐阜商を7‐5で破り、みごとに甲子園初勝利を飾った。続く3回戦でも古豪の久留米商(福岡)相手に延長11回、2‐1と劇的な逆転サヨナラ勝ちを収め、なんとベスト8進出を果たしてしまう。準々決勝で激突したのが、のちに“大魔神”の愛称で呼ばれることとなる右の本格派右腕・佐々木主浩(元・横浜DeNAなど)擁する東北(宮城)であった。

 下馬評では東北断然有利であったが、試合は勢いに乗る甲西が1回裏にいきなり先頭の高野輝昭が二塁打で出塁。続く内林和彦の犠打に3番・奥村伸一の右前適時打であっさりと1点を奪う展開に。さらに3回裏にも1死からまたも1番・高野が四球で出塁すると、2番・内林と3番・奥村の連打で1点を追加。主導権を握る。

 だが、このまま新鋭校におめおめと引き下がれない東北が4回表にようやく反撃。1番・村瀬公三の四球をきっかけに1死二塁とすると、3番・浜田雅成の左前適時打でまず1点。さらに死球、野選で満塁とすると6番・葛西稔(元・阪神)の右犠飛に7番・岩渕正典の中前適時打で一気に逆転に成功したのである。

 それでも甲西はひるまない。6回裏、1死後から連打でつかんだチャンスにダブルスチールを絡め、最後は9番・安田浩一が二塁内野安打を放ち、同点に追いつく。さらに7回裏には2死から4番・石躍雄成が内野安打で出塁すると、またも足を使って東北バッテリーをかき回しにかかる。2死二塁とすると5番・西岡伸剛の右中間への適時二塁打で1点を勝ち越したのである。

 東北も負けてはいなかった。直後の8回表に2番・吉田清人が中前安打で出塁し、1死二塁とすると4番に座るエース・佐々木が左前適時打を放ってたちまち同点に追いつく。白熱した試合はこうして4‐4の同点で最終回の攻防を迎えることとなったのであった。

 9回表、東北は2死を取られながらも1番・村瀬がセンターオーバーの二塁打で出塁。続く2番・吉田の一塁への当たりがきわどいタイミングで内野安打となる。すると、このクロスプレーの合間に二塁から村瀬が一気にホームを突き、勝ち越しの1点をもぎ取ることに成功。最後の最後で突き放した東北がこのまま押し切るかに思われた。

 その裏、甲西最後の攻撃。ここまで両チームが一歩も譲らない好勝負にスタンドの甲西応援団から大声援が送られる。するとその声は球場中に広がっていき、あっという間に甲西を後押しする大歓声で甲子園が埋め尽くされることに。東北ナインがその雰囲気に飲み込まれていくのである。

 甲西は1死を取られたものの、3番・奥村が右前打で出塁し、この試合3個目となる盗塁を決め、一打同点の場面を演出。続く4番・石躍の当たりは一塁・葛西へのゴロとなったが、これを後ろへそらしてしまい、同点。さらに2死二塁から6番・安富秀樹が右翼線に殊勲のサヨナラ安打。こうして壮絶なシーソーゲームに終止符が打たれたのである。

 大会きっての好投手・佐々木に対して甲西打線が浴びせたヒットは14本。仕掛けた盗塁は6。まさにチーム全総力を挙げての“佐々木攻略”であった。

 この快進撃を高校野球ファンは“ミラクル甲西”と呼び、称賛した。しかし、続く準決勝では3試合連続のミラクルは起きなかった。相手はあのKKコンビのPL学園。2‐15の大敗だった。それでも公立校らしいさわやかな風を残して、甲西は甲子園を去って行ったのである。

(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=

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