芸能

萩本欽一「スーちゃん突然のアポなし訪問と女優復帰に隠された“一大決心”(2)

見たことがない大粒の涙

 僕としては、「やっぱり明るい番組で、楽しそうにやってるのが弟さんもいちばん、喜ぶだろう」と、自分の番組「欽どこ!」に出演してもらうことにしました。

 その記者会見で、僕は記者の皆さんに「これからスーちゃんをよろしくお願いします。どうか、これからのスーちゃんに拍手をしてあげてください」とお願いしました。

 しかし、拍手はパラ、パラで、決して好意的ではありませんでした。でも、それはしかたのないことです。記者の皆さんも事情がわからないのですから。

「もう復帰しません。普通の女の子に戻ります」と宣言して引退したのに、2年後には「復帰しました」ですからね。

 記者会見のあともいろんなことを書かれましたが、僕はスーちゃんに言いました。

「スーちゃん、女優として大きな賞を獲るように頑張るんだよ。そしてさ、弟さんの前で大きなトロフィーを持って、『見て! お姉ちゃん、やったわよ!』って叫びなよ。それまではさ、どんなことを言われても我慢しなよ」

 目をキラキラッとさせ、「ええ、やります」と答えてくれたスーちゃん。「欽どこ!」のレギュラーは半年間で、その後は女優業に邁進。89年、映画「黒い雨」で、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞に選ばれます。そして、スーちゃんからのご指名で僕がトロフィーのプレゼンターに。

 楽屋に行くとスーちゃん1人。

「すごいね! これで弟さんの前で『お姉ちゃん、やったわよ!』と叫べるね」

 僕がそう言うと、“ポトッ!”とスーちゃんの瞳から大粒の涙がこぼれました。“ツーッ”という細い涙ではなく、生涯のうちそれまで、一度も見たことのない大きな涙です。

「弟、亡くなったの‥‥」。スーちゃんが再デビューした1年後の81年に亡くなったというのです。

「お空に向けて見せてあげるんだね」と言うと、また、大粒の涙がポトッ!

 今は弟さんと同じ天国にいるスーちゃん(2011年永眠)。

「ホラッ、これが主演女優賞のトロフィーよ」「頑張ったね、お姉ちゃん」。

 僕には天国での2人のそんな会話が聞こえてきます。

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