政治

歴代総理の胆力「橋本龍太郎」(1)怖いものなしの「風切り龍太郎」

「小沢(一郎)はナタの魅力だ。黙々と仕事をして、やるときはドスンと決断する。一方の橋本(龍太郎)はカミソリだな。頭脳明敏、スパッとした切れ味が魅力だ」

 総理大臣となった田中角栄は、多士済々が蝟集(いしゅう)した田中派の中で、有望な若手視をされていた小沢一郎(元自民党幹事長・現国民民主党)と橋本龍太郎を比べ、こう評したものであった。

 その橋本には、若い頃から数々の異名があった。その背景は、諸々の自信あるいは自信過剰から付いたもので、「風切り龍太郎」がいい例だった。文字通り怖いものなしで、永田町を肩で風を切ってカッポするところからついている。

 そのほか、ヘタに触れれば血の出るような逆襲をされることから「カマイタチ」、食らい付いたらカンタンには離れぬことから「タコ」、形容詞としては「血の気が多い」「ケンカっ早い」などがあった。

 なるほど、若い頃から血の気は多く、麻布高校時代はチンピラにからまれて立ち回り、相手のナイフが橋本の左眼の下をかすめて、この傷跡は総理になっての後年もうっすらと残っていた。

 また、1年生議員のときは、自民党本部の職員に組合がないのを知るや、先輩議員に「いまの時代、社会で、こんなことはおかしい」と食い下がったが、先輩議員から「キミ、余計なことは言わんでいいんだ」と一喝されたといった具合だった。

 白眉は、タテつくことなど誰一人いない権力絶頂の「親分」田中角栄に、堂々の反論をしたことだった。

 田中が医科大学のない県の解消のため、全国的に医科大学を置こうとの計画を示したが、橋本は「時期尚早」と迫ったのだった。結局、この件は田中も譲らず、橋本をコンコンと諭(さと)して言い含めたのだが、自信家の橋本はそれでも党幹部に言ったものだった。

「僕は間違ってるとは思っていないですよ」

 しかし、かく言うだけあって、橋本の「仕事師」ぶりは、田中が口にした「カミソリの切れ味」ぶりを発揮し続けた。とくに、厚生行政には絶対の自信を示したものだった。

 大平(正芳)内閣で厚生大臣として初入閣したが、長い間の厚生省(国)と日本医師会の断絶状態を氷解させてみせた一方、これも揉め続けた懸案の「スモン訴訟」を見事に和解へ導いてもみせている。

 また、そのあとの鈴木(善幸)内閣時では、自民党行財政調査会長のポストに就き、ここでも長く懸案だった日本電電公社、日本専売公社の民営をキッチリと実現させている。

 さらに、その後の中曽根(康弘)内閣の運輸大臣時でも、国鉄の分割・民営化に道を開いてみせたということだった。

 こうした行財政調査会長としての橋本の腕力ぶりを見て、田中角栄はこう唸(うな)ったものだった。

「アレ(橋本)は鈴木(善幸)より上かも知れんな」

 その鈴木首相自身も、「橋本は若いけど、一度口にしたことは、キッチリやる凄さがある」と、妙な感心をしていたものだった。

■橋本龍太郎の略歴

昭和12(1937)年7月29日、東京都生まれ。慶応大学法学部卒業後、呉羽紡績入社。昭和38(1963)年10月、26歳で衆議院議員初当選。自民党総裁選で小泉純一郎をおさえて総裁就任。平成8(1996)年1月、橋本内閣組織。総理就任時58歳。平成18(2006)年7月1日死去。享年68。

総理大臣歴:第82・83代 1996年1月11日~1998年7月30日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

カテゴリー: 政治   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「メジャーでは通用しない」藤浪晋太郎に日本ハム・新庄剛志監督「獲得に虎視眈々」
2
2軍暮らしに急展開!楽天・田中将大⇔中日・ビシエド「電撃トレード再燃」の舞台裏
3
不調の阪神タイガースにのしかかる「4人のFA選手」移籍流出問題!大山悠輔が「関西の水が合わない」
4
新庄監督の「狙い」はココに!1軍昇格の日本ハム・清宮幸太郎は「巨人・オコエ瑠偉」になれるか
5
ボクシング・フェザー級「井上尚弥2世」体重超過の大失態に「ライセンスを停止せよ」