社会
Posted on 2013年10月03日 09:58

豪華選手村は被災者たちにどう移るのか(2)町は“震災復興”より“産業復興”に 重点

2013年10月03日 09:58

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 事情をある男性町民が語る。

「町は震災復興よりも産業復興に重点を置いているように見える。震災前から地域産業はすたれつつあり、かつての商店街もシャッター通りになりかけていた。でも、震災で被災地全体が注目され、補助金制度などが整備されてきたため、これまでそっぽを向いてきた中央の大手資本が亘理町にも関心を示し始めてきた」

 亘理町は被災の中心となった沿岸部に中央工業団地を有する。昨年、この団地に隣接する町有地を取得した建設資機材の製造・販売を行う東京機材工業株式会社が「東北機材センター」を建設した。そして、同団地には家庭用プラスチック用品製造で国内最大手のアイリスオーヤマ株式会社の出資会社である農業関連会社の精米工場が進出することが新たに決まった。

 一見すると、被災地の活性化、被災者に潤いを与えるはずなのだが、問題はここからだ。この工業団地は、防災集団移転促進事業による移転候補地に隣接していた。その候補地に移転予定の被災者がこう話すのだ。

「集団移転事業の場合、被災者は国の補助により造成・整備された土地に家を建てるのですが、土地は被災者みずからが買い取るか賃借する形になっています。この候補地の買取価格として町が提示したのが一坪当たり9万数千円。ところが隣接する工業団地進出でアイリスオーヤマが取得した用地価格は一坪当たり約3万円だった。何で我々のほうが3倍もの価格を払わなくてはならないのか」

 工場は建てども、被災者の住宅は建たず。被災者より町外の企業が優遇されるという、何とも矛盾した現象がここでは発生しているというのだ。

 しかも、亘理町の産業復興重視の姿勢が地元の業者を苦しめる結果をもたらしているという。自宅が全壊した自営業者がこう嘆く。

「これまで地元業者を採用してきた町の事業で、中央大手資本を入れたため、被災した地元業者が切られる事態も発生しています。それで月当たり数十万円の売り上げが飛んでしまったケースもあるほどです」

 そんな亘理町のちぐはぐな対応を象徴するような出来事が昨年から今年にかけて起きていた。同町の仮設住宅の1つである通称「公共ゾーン」。この隣接地には被災した町内の鮮魚店や衣料品店、居酒屋、郵便局など28店が入居する仮設商店街「ふれあい復興商店街」があるのだが、その入居者に14年4月をもって退去するように言い渡されたのだ。理由はこの土地にもともと建設が予定されていたサッカー場建設に着手するためだという。住宅すら再建できていない中で、事業用店舗の移転先が決まるはずもなく、入居者たちは一斉に反発。結局、サッカー場建設着手は1年先送りにされたのである。

 さらに、災害公営住宅などの建設が進まないもう1つの理由があるという。

 ある地元の建設業者によると、宮城県内はどこも復興に伴う建設ラッシュが始まっており、人手不足に陥っているという。

 地元建設業者が言う。

「そのせいで、左官や鳶など、職人の人件費は平均しても震災前の2~3倍。もちろん有能な職人になれば引く手あまたでそれ以上になります。集団移転事業に伴う住宅建設や災害公営住宅建設は、それほど予算規模も大きくないので、受託しても人件費の高騰分を考えると儲けはわずかか、最悪なら赤字です。正直、地元業者は受託したくないというのが本音。選手村の予算をこっちに回してほしいぐらいなのに、オリンピック開催に伴う建設特需が首都圏で発生すれば、職人たちはそっちに引き抜かれ、ますます人件費は高騰するでしょうね。正直、オリンピックのおかげで復興どころではなくなると、皆、戦々恐々としていますよ」

 ズレまくりの自治体の対応、そこにオリンピック開催が加わることは、復興の遅れに拍車をかけることになりかねないのだ。

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