社会

最終兵器はネズミ捕りのような捕獲器/二度連れ戻された「脱走ねこ」の物語(3)

 夜になって、末弟の保護猫、クールボーイをお世話してくれたMさんに連絡を入れた。

「クールがいなくなったみたい」

「どうしたの」

「午後、いや午前中かもしれないけど、ずっと姿が見えない。脱走したんだと思う」

「もしかして、窓や玄関を開けたままだった? ダメだよ」

「違う、違う。実は今、外壁の塗装をやっているんだけど、足場を組む時に工事の人が台所の出窓の網戸をずらして、その格子の間から飛び出したんだと思う」

「探してみた?」

「とりあえず近所や、ちょっと離れたところまで探しには行ってみたけど」

「いないかぁ…」

 Mさんの気が気じゃない様子が伝わってくる。

 どうやって見つけ出せばいいのか。初めての経験で皆目見当がつかない。

「どうすればいい? 何か探し出す方法はある?」

 Mさんはこれまで何匹も猫を飼って、経験豊富なので、良策を期待するしかない。

「クールボーイは懐かない猫ちゃんよね。抱っこさせないでしょ。見つかっても捕まえることができない猫(こ)はまた逃げちゃうから、いちばん難しいの」

「そうか、ダメか」

「でも、諦めないで」

 しかし、探し回るくらいしか、見つける方法が思い当たらないのだ。

「猫を捕まえるための大きな捕獲器があることは知ってる?」

「えっ!」

 初めて聞く話だ。

「それはどういう…」

「要するに、ネズミを獲る金網のカゴのようなもので、それをもっと大きくした金網のケージがあるの。それにカリカリとか好きな食べ物を仕掛けて、おびき出す」

「大きさは?」

「縦30センチ、横80センチくらいかな。ネットで検索してみて。猫、捕獲器で出てくるから」

 すぐに検索してみる。すると、金網の箱の写真がズラッと並んだ。動物用捕獲機、踏み板式、野良猫、迷い猫…。大きさは79×28×33センチ。Mさんの説明とピッタリ一致する。

「ある、ある。でも、使い方、わかるかな」

「大丈夫よ。とにかくやらなきゃ。ネットで取り寄せると時間がかかるかもしれないから、ウチにあるのを今からすぐ送る」

 Mさんも保護猫を世話した関係上、必死だ。その気持ちが伝わってきた。

「申し訳ない」

 Mさんとはすでに30年来の付き合いだ。連絡が途切れていた期間もあったが、Mさんが都内で経営しているブティックにたまたま立ち寄ったら、「保護猫、紹介します」というポップがレジに置いてあった。先住猫のジュテを飼っていたので(本サイト連載「ウチの猫がガンになりました」参照)Mさんと話がはずみ、最初の保護猫ガトー、次にクールボーイを紹介してくれたのだった。

 そしてその時、ふっと思った。仕掛けるといっても、どこに?

「そうよね。どこか見当はつかないの?」

「どこにいるかわからないからね」

「私も探してあげたいけど、ウチからは遠いものね」

「とにかく見つけ出さないことには、ということだね。夜中、朝も見て回るしかないか」

 ビールを飲みながら話をしたのだが、ちっとも酔った気がしない。

 連れ合いのゆっちゃんはMさんとの会話を聞いていたのだが、コトの重大さに深刻な顔をしている。

「私も探すから。その捕獲器って、Mさんのところからいつ届くのかしら」

「明日の午後か、夜かな」

「それまでに探そう」

 早々に、飲みは切り上げる。再びクールボーイを見つけるために、11月に入って冷え込みがきつくなってきた夜の住宅街に出かけたのだった。クールは寒空の中、どうしているのだろうか。

(峯田淳/コラムニスト)

カテゴリー: 社会   タグ: ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
3
「島田紳助の登場」が確定的に!7月開始「ダウンタウンチャンネル」の中身
4
神宮球場「価格変動制チケット」が試合中に500円で叩き売り!1万2000円で事前購入した人の心中は…
5
前世の記憶を持つ少年「僕は神風特攻隊員だった」検証番組に抱いた違和感