社会

捕獲器の板を踏むと入り口がガシャンと閉まった/二度連れ戻された「脱走ねこ」の物語(4)

 猫探しは、クールボーイが初めてではなかった。マンションに住んでいた時、最初の猫のジュテは外飼いをしていた。3階の玄関のドアから下に降りて行って散歩、トイレを済ませて帰って来るのだった。もっとも、最初の頃は2、3日いなくなることもあって、近所を探し回った。住宅と住宅の境界、庭、ガレージ、車の下…。

 それでもジュテは、ひょっこり帰って来た。そんな時はしばらく閉じ込めておいたのだが、やはり今回のように、マンションの大規模修繕で足場が組まれた時に、渡し板に飛び乗ってマンションをグルグル歩き回り、外に出かけて行った。以来、戸建てに引っ越す前まで、ジュテはすっかり外飼いになっていた。

 ただ、そんなジュテを探し歩いた時の記憶があるので、どんなふうに、どこを探せばいいのかといった勘は働いた。とはいっても、呼べば「ニャー」と寄ってくるジュテと、逃げていくクールでは、難易度が格段に異なるのだが。

 懐中電灯を持って夕食後、深夜、未明と自転車で出かけたが、収穫なし。気が付いたのは、野良猫が意外に多いことだった。駐車場の車の下に隠れている猫が何匹かいた。何カ所かには、ご飯の皿が置いてあった。お腹をすかせたクールがやってきてカリカリを食べたりしていないかと期待したが、ことごとく裏切られた。

 翌日、9時頃にやってきた外装塗装の工事の人に、猫を見かけなかったか、聞いててみた。

「見てないですね」

「逃げちゃったみたいなんだけど」

 網戸をずらした時に出窓から逃げたのでは、と言ったら、はっきりはわからないのに、工事の人が逃がしたみたいになるので、強くは言えない。この時点で責めても仕方ない。やはり探すしかないのだ。

 この日は家で仕事。午前も午後も探し回り、連れ合いのゆっちゃんも買い物のついでに、お店の周りなどをチェックして回った。しかし、クールがいる気配はない。我が家の裏には、懇意にしている和菓子屋がある。その女将さんには、猫を見つけたら教えてほしい、できればお客さんにも聞いてほしいとお願いしたが、やはり手がかりになるような情報はなかった。

 夕方、Mさんが送ってくれた小動物用捕獲器が届いた。結構でかいし、重い。とにかく組み立ててみる。本体の組み立ては簡単だが、仕掛けの部分は取扱説明書を見ても、わかりにくい。猫がご飯を食べたくて踏む板と、入り口、扉の引き上げ用金具との連結が微妙で、何度もやってみる。金具で引き上げ、踏み板を横から押して、何度か試したら、入り口がガシャンと閉まった。これで大丈夫か。Mさんにお礼を兼ねて、連絡する。

「届きました」

「やり方、わかった?」

「なんとか」

「それで、いくつか要領があるの。まずクーちゃんが好きな食べ物、缶詰でもカリカリでもいいから、お皿に用意する。入り口から踏み板のところまで新聞紙を敷いて、その上に、クーちゃんが使っている布や、クーちゃんの臭いがするものを被せる。ご飯の皿を踏み板の奥に入れて、手前にも撒き餌みたいな感じで、カリカリなどを置く。明るくない方がいいから、ケージ全体に布とかバスタオルを被せる」

 電話をしながらMさんに言われたことを復唱し、ゆっちゃんにも伝える。「だいたいわかった」とゆっちゃん。

「まだ、クーちゃんは見つからないの?」

「家の周囲をグルグル何度も回ってみたけど、いない」

「でも、お腹をすかして戻ってくるかもしれないから、捕獲器は仕掛けておいた方がいいから」

「場所は逃げた台所の出窓の前とか?」

「そこから逃げた可能性が高いんだから、いいと思うわ」

 ゆっちゃんはクールの居場所だった座布団に被せた布やバスタオルを持って、2階から降りてきた。捕獲器にご飯などを手際よく準備してくれたので、外に持っていき、踏み板を押し、入り口の扉がガシャンと下りるか試して、準備OK。

 クールボーイが舞い戻ってきて、飛びついてくれることを祈る。

(峯田淳/コラムニスト)

カテゴリー: 社会   タグ:   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
3Aで好投してもメジャー昇格が難しい…藤浪晋太郎に立ちはだかるマイナーリーグの「不文律」
2
あの「号泣県議」野々村竜太郎が「仰天新ビジネス」開始!「30日間5万円コース」の中身
3
高島礼子の声が…旅番組「列車内撮影NG問題」を解決するテレビ東京の「グレーゾーンな新手法」
4
「致死量」井上清華アナの猛烈労働を止めない「局次長」西山喜久恵に怒りの声
5
皐月賞で最も強い競馬をした3着馬が「ダービー回避」!NHKマイルでは迷わずアタマから狙え