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Posted on 2023年02月12日 17:56

新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「日本マット界の体質を変えた噛ませ犬発言!」

2023年02月12日 17:56

 1982年のアントニオ猪木は、ジャイアント馬場とのトップ会談で引き抜き戦争を停戦に持ち込むことができたことで一安心してしまったのか、体調不良に悩まされる1年を送った。

 まず4月1日の蔵前国技館における「第5回MSGシリーズ」決勝戦を両膝の負傷を理由に辞退。4月5日からのドバイ遠征には参加して3試合をこなし、4月21日の蔵前決戦ではジェシー・ベンチュラを一蹴した。4月23日に大宮スケートセンターで開幕した「ビッグ・ファイト・シリーズ」にも出場したが、4戦目の27日・秩父大会から膝の手術を理由に欠場。実は膝の手術というのは表向きの話で、糖尿病の悪化による入院だったという。

 6月19日開幕の「サマー・ファイト・シリーズ」で復帰したが、続く7月16日からの「サマー・ファイト・シリーズ第2弾」は内臓疾患を理由に再び欠場。完全復帰を果たしたのは8月27日の後楽園ホールにおける「ブラディ・ファイト・シリーズ」開幕戦だ。

 猪木の長期欠場は、新日本が否応なしに新たな時代に突入したことを示すものだった。猪木不在の間にはトップ外国人のハルク・ホーガンが日本陣営入りして人気を博し、猪木の復帰3日後の8月30日には、ニューヨークのMSGで藤波辰巳(現・辰爾)がWWFインターナショナル・ヘビー級王者になり、ヘビー級として猪木の後継者の道を歩み始めた。

 そして10月8日の後楽園ホールにおける「闘魂シリーズ」開幕戦で、それまでの日本のプロレスの体質を覆す事件が起こる。長州力の“噛ませ犬”発言だ。

 72年ミュンヘン五輪のレスリング代表という肩書を引っ提げて新日本に入団したものの、プロレスに馴染めずに中堅クラスに甘んじていた長州は、この年の4月にメキシコに遠征。この日が帰国第1戦だった。

 メキシコでUWA世界ヘビー級&世界タッグの2冠王者になる実績を上げた長州は、メインで猪木&藤波とのトリオでアブドーラ・ザ・ブッチャー、バッドニュース・アレン、SDジョーンズと対戦するという厚遇を受けたが、最初に選手コールされると「何で俺が先だ!?」と田中秀和リングアナに文句を言った。

 序列が下の人間からコールされるのが通例だが、長州には「もう藤波の下ではない」という意識があったのだろう。その長州を藤波は無言で睨みつけた。

 試合で先発を買って出るのも下の人間からで、当然のように猪木と藤波はエプロンに下がったが、長州が藤波に文句を言い、藤波は「行けよ!」と指示。長州がこれを拒絶すると、藤波が出て事を収めたものの、その後のタッチで2人はギクシャク。藤波がジョーンズを回転エビ固めに仕留めた次の瞬間、長州が張り手からボディスラム、さらにストンピングで藤波を場外に蹴散らした。

 そして「何で俺がお前の下なんだ? 俺はお前の噛ませ犬じゃないぞ!」という長州の有名な“噛ませ犬発言”が生まれた。

 実際には長州のマイクアピールはCM中でテレビではオンエアされておらず、本当に「噛ませ犬」と言ったかどうかは今も定かではないが、長州の主張は「序列を乱してはいけない」というプロレス界の暗黙の掟を破るものだった。

 試合後、猪木が控室に向かう階段の踊り場で長州を鉄拳制裁しつつも「こうなったら、2人を思う存分、戦わせる」と、10月22日の広島県立体育館で一騎打ちを組んだということは、猪木も長州の行動を容認したということ。後年になって長州は「溜まりに溜まったものをポンと栓を抜いてくれたのが猪木さんだった。長州力っていう酒が一番おいしい時にポンと栓を抜かれた時にはホッとしたな」と独特の言い回しで、この時のことを語っている。

「あの頃はスタン・ハンセンとかハルク・ホーガンとかのデカい外国人と毎日やらされて、体がもたないって思った。メチャメチャしんどかった。だからメキシコに逃げたんだ。休養だ。それで帰ってきた時に“また同じような環境に置かれたら耐えられない、嫌だ!”と思ったから、ああいうことになった」とも言う。

 この長州の行動に触発されたのが、長州と一緒にメキシコから凱旋帰国した小林邦昭である。

「一緒に帰ってきた長州が噛ませ犬発言で頭ひとつ飛び抜けちゃったから“やられた!”って。長州は藤波さんをターゲットにしたけど、ジュニアの僕が猪木さんや藤波さんに噛みついてもしょうがないんで、おのずとターゲットはタイガーマスクになった」と、小林。

 小林は藤波vs長州が行われた広島でタイガーマスクを急襲。同月26日の大阪府立体育会館で一騎打ちに持ち込み、マスクを破いて一夜にして“虎ハンター”として時の人になった。

 長州と小林は新日本の序列を崩しただけでなく、それまでの日本人vs外国人という日本のプロレスのシステムを壊し、日本人対決が主流になるという新たな時代を呼び込んだのだ。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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