社会

1人400万円!高額「認知症治療薬」バラマキで健康保険制度の「終わりの始まり」

 これは健康保険制度の終わりの始まりかもしれない。

 厚生労働省は9月25日、日本の製薬大手エーザイと米製薬企業バイオジェンが開発したアルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ」(商品名:レケンビ)の製造販売を承認した。今後、保険診療で使われる見通しだという。

 なんとも喜ばしいことだが、なんと日本の医師の多くが、画期的な新薬の「保険診療」に待ったをかけている。

 なにしろ「レケンビ」は、先に承認されたアメリカでは、患者1人あたり年間390万円もする高価な薬。飲み薬ではなく2週間に1回の点滴が必要で、その受診料、処置料を含めると、年間600万円以上かかるからだ。

 アメリカの医療制度では加入している健康保険によって治療内容が変わってくるから、事実上、高い保険に加入している金持ちしか、レケンビの治療は受けられない。一方で、日本の医療は「社会主義」。これから厚労省が詰めるであろう健康保険適用の条件に合う認知症患者なら誰でも、レケンビの恩恵を受けられる。

 ところが認知症患者の「レケンビ」自己負担額は、年収370万円以下の年金生活者なら約6万円。つまり残りの380万円の薬代は、その他の健康保険加入者がまるまる負担することになる。

 2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大学名誉教授が開発したガン治療薬「オプジーボ」の薬価は600万円から700万円(日本人男性の平均的な体型の場合)にも及び、他のガン治療薬でも1回あたりの薬価は7万円から10万円が当たり前。民間の医療保険に加入していたとしても、家族の生活費や将来の学費を天秤にかけ、20代から50代の若いガン患者ほど、経済的な理由から高額な抗ガン剤治療を諦める人もいる。

 若いガン患者、幼い子供を抱えた患者には救いの手を差し伸べず、認知症の老人には400万円の薬をバラまく。厚生労働省のあまりにクレイジーで不公平な世代間格差に、医療現場から疑問の声が上がっているのだ。

 分子標的薬と言われる高額な抗ガン剤は、値段なりの費用対効果は期待でき、転移性の肺ガン5年生存率が16%と、従来の抗ガン剤の4%に比べて4倍の効果があったと、アメリカのガン学会で発表されている。

 一方、新しい認知症治療薬「レケンビ」は、認知症を完治させる薬ではない。エーザイの報道資料によれば〈18カ月時点の臨床症状の悪化をプラセボと比較して27%抑制〉〈衣服の着脱、食事、地域活動への参加など当事者様が自立して生活する能力を介護者が評価〉したスコアでは〈プラセボと比較して37%の統計学的に有意なベネフィットが認められました〉とある。

 あくまで認知症の進行を遅らせる効果にすぎず、新薬の臨床試験中に脳出血や浮腫、頭痛、転倒などの有害事象も10%報告された。27%の患者は1年半の間、認知症の進行を防げたが、10%は脳出血や転倒…という結果をどう評価するかは、認知症患者の家族次第だ。

 今後、使用する患者が増えるにつれ、新薬の副作用で脳出血で寝たきりになった高齢者も増えるとしたら、その分も我々が支払う健康保険料は値上がりし続ける。

 つまり、新薬「レケンビ」の承認は事実上の「増税同然」「現役世代の負担増」を意味しており、9月25日に岸田文雄総理が発表した経済対策など焼け石に水もいいところだ。年収90万円以下にまで目減りしてしまう。

 経済対策で注目されているパート従業員の「130万円の壁」も、年収130万円を超えると健康保険料などの社会保険料を支払わねばならなくなるため、パート従業員の足枷になっている。なにしろ130万円を1万円でも超えると、健康保険料などの支払いで年収100万円以下にまで目減りしてしまいかねない。家計には大打撃だ。

 国民が望む少子化対策、人手不足解消策、経済対策はただひとつ。いますぐ国民皆保険、健康保険制度なんてやめてしまえ、と言いたくもなる。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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