ロシアのプーチン大統領は先日、モスクワで開かれたAI(人工知能)関連の会議で演説し、対話型AIサービス「チャットGPT」をはじめ、生成AI分野での西側諸国の独占支配をヤリ玉に挙げる形で、次のようにブチ上げてみせた。
「欧米の検索エンジンは非常に偏っており、わがロシアの文化を考慮していない。西洋的な基準で作られたAIは、排外主義者を生み出しかねない」
独裁者プーチンには「死亡説」や「影武者説」が飛び交っており、今回の演説がプーチン本人のものであるかどうかは定かではない。ただ、西側諸国に対する一連の批判が、クレムリン(ロシア大統領府)発のメッセージであることは確かだろう。
ところが、である。欧米を名指しした今回のイチャモンはむしろ、ロシアの生成AIにこそよく当てはまるというのだ。ロシア情勢の専門家が指摘する。
「ロシアには『ロシア版グーグル』と言われる、『ヤンデックス』なる巨大IT企業が存在します。そのヤンデックスが開発した『ヤンデックスチャットGPT』は、都合の悪いことには一切答えないという、トンデモGTPなのです。まさに独裁政権の意のままに望ましい解を生成し続ける『洗脳GPT』と言って差し支えありません」
この点については、11月5日付の読売新聞朝刊のコラム「ワールドビュー」も、モスクワ支局長のレポートとして、そのデタラメぶりを次のように伝えている。
〈昨年のサッカーのワールドカップの優勝国を聞くと「アルゼンチン」と答えるが、昨年2月に始まったウクライナ侵略について聞くと、こう答えた。「AIは多くの事が出来ますが、全てではありません。例えば私はこの話題を話す準備はできていません」〉
〈東日本大震災の死者数は「ウィキペディアによると1.5万人」と答えるが、1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所での事故の死者数は答えない〉
〈「ウクライナとの戦いはいつ終わるのか」と聞くと、こう答えた。「私は誰も不快に感じないよう、その話題には触れません。他のことを聞いてください」〉
まさに噴飯モノである。仮に「プーチンは生きていますか」「プーチンに影武者はいますか」と尋ねたら、この洗脳GPTはなんと答えるのだろうか。
(石森巌)