スポーツ
Posted on 2024年08月10日 05:56

二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈殴り殴られ、張り手合戦の顚末〉

2024年08月10日 05:56

武双山VS千代大海」大相撲名古屋場所・1998年7月13日

「ヘビー級のボクシングの試合より面白かったんじゃないの」

 土俵下の佐渡ヶ嶽審判部長(元横綱・琴櫻)の一言が全てを物語っていた。

「若いんだからいいんじゃない。素手だからな。音もすごかったよ」

 1998年名古屋場所9日目。東前頭二枚目・武双山と西関脇・千代大海との一番は、好角家の間で、今も語り草である。

 7月13日、愛知県立体育館。新旧の大関候補対決は武双山の強烈な右の張り手から始まった。

 目には目を、とばかりに千代大海も右を張り返す。ここから先は、相撲というよりも殴り合いだ。

 千代大海の左張り手、いや左フックが大きく空を斬る。にらみ合いながらも距離を取った武双山は「来いよ!」とばかりに挑発の仕草を見せる。

 自らが仕掛けたはずなのに「つい挑発に乗ってしまった」と武双山。「ああなったら男の意地だよ。ケンカは十段なんだけどな」と千代大海も負けていない。

 武双山10発、千代大海7発。最後は突き出しで武双山に軍配が上がった。

 当時、武双山の体重が169キロであるのに対し、千代大海は160キロ。重量級の張り手が炸裂するたびに、館内にはドスッ、バシッという鈍くて重い音が響き渡った。

 親方衆の中には「相撲道にもとる行為」と眉をひそめる向きもあったようだが、これも相撲の一部か。

 相撲の起源といわれる野見宿禰と當麻蹶速の天覧相撲は、「日本書紀」によると、互いに足で踏みつけ合い、最後は宿禰が蹶速のあばら骨をへし折り、勝者となっている。この時の傷が原因で、蹶速は命を落としたとされる。

 話を武双山対千代大海戦に戻そう。両者とも得意手は突き、押しでタテへの突進には定評があった。

 まだ日本のラグビーが弱かった頃の話。日本代表の強化委員長をしていた宿澤広朗にFWの強化策について聞くと「武双山のようなフランカーが欲しい」と語った。今となっては懐かしい話だ。

 一方の千代大海は「ケンカ十段」と名乗るだけあって、ストリートファイトでは負け知らず。小・中学時代を過ごした大分では、泣く子も黙る武闘派だった。

 千代大海の数ある武勇伝のひとつに〝大分川の決闘〞というものがある。

 千代大海少年は、まだ中学2年生。仲間のひとりが不良高校生に因縁をつけられ、殴られた。

「仇をとってやる!」

 そう誓った千代大海少年は大分川の橋のたもとに11人の高校生を呼び出し、大声で怒鳴り上げた。

「やったやつは出てこい!」

 この時点で勝負ありだ。千代大海少年の、あまりの剣幕に恐れをなした高校生たちは戦意喪失し、土下座までして謝ったという。

「二度と弱い者いじめはするな!」

 かくして〝大分川の決闘〞は千代大海少年の圧勝に終わったのだ。事の顚末は自著「突っ張り」(東京新聞出版局)に詳しい。

 その著書には、武双山戦に関する記述もある。

〈張り合った時間は、たったの32秒と聞くが、オレにとって、10分くらいに長く感じた。けんか(突っ張り)に勝って、相撲に負けた一番だった〉

 勝ち名乗りを受ける武双山の口のまわりは血に染まり、顔面はドス黒く変色していた。

二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2026年09月14日 11:30

    AIは本当に人類を終わらせるのか。専門家のとある主張が世界を震撼させている。その「AI終末論」は、AI開発企業アンソロピックに勤めていた元研究員、ジェイコブ・コクソン氏によるもの。Xで「AI研究関係者の多くが、AIは今後10年以内に人類を破...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    事件
    2026年09月16日 20:30

    「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」は、広島カープに大きな衝撃を与えた忌まわしいブツだ。元広島カープの羽月隆太郎氏にこれを譲り渡したとして医薬品医療機器法違反の罪に問われた会社役員・滝口涼介被告の初公判が9月16日に広島地裁で...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    社会
    2026年09月17日 07:15

    20世紀最大級のミステリーと言われてきた、イギリス・スコットランドのネス湖に生息するという未確認動物(UMA)の「ネッシー」に、再び熱い視線が注がれている。いったいなぜか。一時期は目撃情報が激減し、専門家からは死亡説や、人間の活動を警戒して...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/9/15発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク