「パイレーツ VS ドジャース」MLB公式戦・2024年6月5日
MLBドラフトでは、30球団が最大40巡目まで、1200人前後の選手を指名する。
その中での全体1位はエリート中のエリート。ドラフト会議がスタートした1965年以来、60人(うち3人が契約不成立)の選手がこの栄誉に浴している。
23年の全体1位は、ピッツバーグ・パイレーツの右腕ポール・スキーンズ。高校卒業後は空軍のパイロットを目指して空軍士官学校に進んだが、3年時にルイジアナ州立大に転入し、持ち前の豪速球でチームをカレッジ・ワールドシリーズ制覇に導いた。
投げ方は独特だ。198センチの長身ながら、セットポジションからスリークォーター気味にボールをリリースする。
学生時代にはピッチャーとキャッチャーの「二刀流」だったこともあり、元々地肩と手首が強いのだろう。コンパクトなフォームもキャッチャー出身らしい。
カリフォルニア州フラートン市出身のスキーンズ、少年時代はエンゼルスの熱烈なファンだった。憧れの選手として、アルバート・プホルス、マイク・トラウトとともに大谷翔平の名前をあげている。
2024年6月5日(現地時間)、PNCパーク。パイレーツのマウンドにはスキーンズが上がった。大谷はロサンゼルス・ドジャースの「2番DH」で出場した。
全米注目の初対決は、1回表1死無走者の場面。3球三振でスキーンズに軍配が上がった。
1球目、101.3マイル(約163キロ)、内角ストレート、空振り。
2球目、100.1マイル(約161キロ)、内角高めストレート、空振り。
3球目、100.8マイル(約162キロ)、外角やや高めストレート、空振り。
投げも投げたり、振りも振ったり。これぞMLBのだいご味だ。
スキーンズ言うところの「ビッグ・オン・ビッグ」、すなわち力対力の真っ向勝負である。
しかし、これで終わらないのが大谷のユニコーンたる所以だ。
7対0とパイレーツ大量リードで迎えた3回表2死一塁。3万人近い観客の視線が2人の2度目の対決に注がれた。
1球目、100マイル(約161キロ)、内角高めストレート、空振り。
2球目、チェンジアップ、外角低め、ボール。
3球目、チェンジアップ、内角低め、ボール。
4球目、99.5マイル(約160キロ)、外角高めストレート、空振り。
5球目、100マイル、内角高めストレート、ボール。
フルカウントからの6球目、100.1マイルのストレートは真ん中高めへ。大谷のバットが快音を発すると、打球はバックスクリーンに飛び込んだ。
打球速度105.6マイル(約169.9キロ)。あれこそは「音速の打球」だった。
「スピードよりもアングルだったり、リリースポイントが特徴的だと思った。それを頭に入れて打席に立った」と大谷。1打席目の3球三振でチューニングを終えていたのだ。
スキーンズにとって惜しまれるのは5球目の内角球。決めにいったストレートがボールと判定されたことで6球目が甘くなった。逆に言えば、大谷の選球眼の勝利でもあった。
なお試合は10対6でパイレーツが勝ち、スキーンズは3勝目をあげた。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。