スポーツ

二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈追悼 長嶋茂雄VS金田正一の19球〉

「巨人 VS 国鉄」プロ野球開幕戦・1958年4月5日

「ミスタージャイアンツ」とも「ミスタープロ野球」とも呼ばれた長嶋茂雄さん(巨人終身名誉監督)が、さる6月3日、肺炎のため亡くなった。89歳だった。

 そこで今回は偉大なミスターへの追悼の思いを込め、「平成・令和スポーツ名勝負」の特別版として昭和に戻り、長嶋さんのデビュー戦を振り返ってみたい。

 長嶋さんが、自らが塗り替えた東京六大学野球の本塁打記録(8本)を引っさげ、立教大から巨人と契約したのが1957年11月。前年に引退した千葉茂が付けていた背番号「3」を引き継いだ。

 監督は水原茂。チームは55年から57年にかけてセ・リーグを3連覇(55年は日本一)していたが、長年に渡って巨人を牽引し続けた4番の川上哲治が、晩年を迎えるなど、世代交代の時期に差しかかっていた。

 長嶋さんへの期待の大きさは、巨人が本拠地とする後楽園の株価の推移が示していた。58年2月末に90円だった株価が開幕前日の4月4日には130円にまではね上がったのだ。

 58年4月5日、東京・後楽園球場。巨人の開幕カードの相手は国鉄。後に400勝を達成する左腕エース金田正一は、前年までに182勝をあげていた。

 水原はゴールデンルーキーを3番サードで起用した。

 午後1時30分試合開始。

〈一回表、国鉄の一番打者飯田(徳治)の三塁凡ゴロを長嶋が軽く捌いて一塁手川上へ好送球すると、ただそれだけで四万五千人が熱い拍手をおくった。〉(プロ野球三国志」大和球士著、ベースボール・マガジン社)

 長嶋さんは、まずは守備で観客の心を掴んだのだ。

 注目の初対決は1回裏2死無走者。長嶋さんの自著(「野球は人生そのものだ」日本経済新聞出版社)によると、〈金田さんは、私を見るとなぜかニヤッと笑ったように見えた〉という。

「おまえ、こんな球見たことあるか」

 金田の顔には、そう書いてあった。

 1球目は内角への快速球。空振り。4球目は、内角は内角でも高めの真っすぐ。長嶋さんのバットは、あえなく空を斬った。

 第2打席は、4回二死無走者。フルカウントからの高めのカーブに、またしても長嶋さんのバットは空を斬った。

 3度目の対決は7回無死1、2塁。初球にセーフティバントを試みたが、空振り。最後は真ん中の真っすぐをフルスイングしたものの空振り三振。

 9回裏、二死無走者。4度目の対決はフルカウントからのカーブに体が泳ぎ、4打席連続4三振。

 試合は0対0のまま延長戦に突入し、11回4対1で国鉄が勝った。

 試合後、金田は次のような談話を残している。

「(長嶋は)スイングは鋭いが、上半身が泳ぐ」

 一方の長嶋さん。

「あの垂直に落ちるボールは、ちょっと手が出ません」

 金田が得意とするカーブを、長嶋さんは「2階から落ちてくるような」と表現している。

 この日、金田が長嶋さんに投じたボールは19球。10球スイングし、バットにかすったのは1球だけ。三振は全て空振り。

 まさに斬るか斬られるか。どんなボールにもフルスイングで向かってくる背番号「3」の鬼気迫る姿に、金田さんは衝撃を受けた。

「いつかはコイツにやられるやろうな」

 その予感は、後に的中する。2人の対決は、金田が巨人に移籍する64年まで続いた。

二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森喜朗 スポーツ独白録」。

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