今季のプロ野球はセ・パ両リーグで打率や本塁打数が昨年を上回り、「打撃好調」の声があちこちで聞かれる。スタンドに飛び込む打球の数は、開幕から交流戦終了時点で全12球団445本に達し、平均打率は昨季からアップ。これほど明るい打線の背景には木製バットの革新、いわゆる「牛骨バット」の普及が大きく寄与しているとみられている。
現役時代、日本ハムやヤクルトで活躍した今浪隆博氏は自身のYouTubeチャンネルでこう指摘する。
「確かに今年はボールがよく飛ぶと感じる。3割打者も多い」
そう前置きしつつ、次のように言い切っている。
「選手に聞いた話では、ボールは変わっていない。実際に変わったのはバット。牛骨バットがかなり影響している」
今浪氏が実際に通常の木製バットと牛骨バットを「コンコン」と叩き比べたところ、牛骨バットは「キーン、キーン」という高い金属音に近い響きになったという。木目を機械で詰めることによってバット全体の剛性が増し、打球速度や飛距離がアップする仕組みだとしている。
牛骨バットとは牛の骨を使ったものではなく、木製バットの木目を人工的に圧縮・硬化させたもの。選手自身が手で加工を施すのではなく、バットメーカーが工場ラインで加工を行い、完成品を各球団に一括供給する。2025年シーズンはこの牛骨バットがデフォルトとなり、選手は個別指定しなくとも高反発性能を備えたバットを手にしている。
元ヤクルトの宮本慎也氏は、スポーツ紙の連載で牛骨バットに言及している。
「昔は俺も木目が出てきたバットをしごいていたけど、今の時代でそんなのする選手はいない。圧縮バットのことを言ってんだよ」
ただ、強化された牛骨バットは、折れやすさを抱えている。事実、今季は折損シーンが増加。6月6日の広島×西武戦では、広島・末包昇大の折れたバット片が打球と一緒にショートを守る源田壮亮の前に転がり、ジャンプしてかわした際に打球を逃し、タイムリーヒットが生まれた。現行ルールでは「インプレー」とみなされ、守備妨害には該当しなかったが、折れやすいバットの存在があらためて浮き彫りになっている。
ボールの規格に変更がない以上、シーズンを通じた打撃成績の底上げは、バット技術の革新、とりわけ牛骨バットの普及が大きく寄与しているといえる。バットの折れやすさは懸念材料ではあるが、シーズン後半も引き続き、豪快な一発があちこちで見られるのではないか。
(ケン高田)