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「日本 VS チェコ」WBC1次ラウンド・2023年3月11日
なぜ、これが名勝負かと訝る向きも多かろう。だが、この試合がなければ、第5回WBCで、野球日本代表(侍ジャパン)が優勝を果たすことはなかったかもしれない。
2023年3月11日、東京ドーム。1次ラウンド第3戦で、日本はチェコと対戦した。
ちょうど12年前の同日、東北地方を中心に東日本は大地震に見舞われた。先発のマウンドには、津波により父と祖父母を亡くした岩手県陸前高田市出身の佐々木朗希(当時・千葉ロッテ)が上がった。
チェコは欧州の中では野球の盛んな国として知られるが、ロースターの大半はアマチュア。監督のパベル・ハジムは精神科医。選手たちの職業も教師、消防士、会社員とさまざまだ。
名前が知られているのは、後に育成選手として巨人入りする“チェコのアーロン・ジャッジ”ことマレク・フルプくらい。日本からすれば、はるか格下の相手である。
1回表、チェコは2死から3番フルプが佐々木の164キロのストレートをレフト線に弾き返した。続くマーティン・セルヴェンカのショートゴロを中野拓夢がエラーし、チェコが先制した。
格下相手に1点くらい、どうということはない。しかし、164キロの直球でも、国際大会では打たれるのだ。これは日本にとっていいクスリとなった。
日本が3対1と逆転して迎えた4回表1死、7番ウィリー・エスカラの右ヒザに佐々木の162キロのストレートが直撃した。
その場に倒れ込み、ピクリともしないエスカラ。負傷交代かと思われたが、エスカラは足を引きずりながら一塁ベースにまで歩き、ベースを踏んだ後、なんとライト方向に向かって走り出し、さらには全力疾走で帰塁したのだ。
エスカラにとって162キロの豪速球の死球は、初めてだったに違いない。本人がにらみ返しでもすれば、両軍のベンチは騒然となるところだ。しかし、彼はそんな態度を微塵も見せず、佐々木の謝罪に対しても、「気にするな」という仕草で応えた。
この光景を一塁側ベンチから見ていた白井一幸ヘッドコーチの回想。
「彼が全力疾走した瞬間、日本の選手たちは皆ベンチで立ち上がり、拍手した。“全力”という言葉の意味を、日本の選手たちは彼から教わった。これが後々の侍ジャパンの戦い方に生きてきたと思っています」
チェコは4回裏にも4点を奪われ、1対7と劣勢に立たされたが、それでも諦めない。5回表には、無死から1番ボイテハ・メンシク、2番エリック・ソガードが、左腕の宮城大弥から連続ヒットを放ち、4番セルヴェンカのショートゴロで1点を返した。
試合は日本の打線が爆発し、10対2で大勝したが、東京ドームに詰めかけたファンはチェコにも惜しみない拍手を贈った。
スポーツの世界には「グッドルーザー」という言葉がある。この日のチェコはまさにそれだった。敗れはしたものの、スポーツマンシップにのっとって堂々と戦い、相手チームや異国の観客からも称賛された。
1次ラウンドを終え、米国での決勝トーナメントを戦うためにマイアミ入りした大谷翔平は、チェコの帽子をかぶっていた。ささやかではあるが、それはグッドルーザーへの敬意を示すものだった。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森喜朗 スポーツ独白録」。
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