スポーツ
Posted on 2025年05月31日 05:56

二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈沖縄で救世主となった比江島慎〉

2025年05月31日 05:56

「日本 VS ベネズエラ」バスケットボール男子W杯・2023年8月31日

 2023年夏にフィリピン、インドネシア、日本の3カ国で行なわれたバスケットボールの男子ワールドカップ(W杯)は、2024年パリ五輪のアジア予選も兼ねていた。

 1976年モントリオール大会以来、48年ぶりの自力での五輪出場を目指す日本にとって、難関と見られたのが、順位決定リーグO組初戦のベネズエラ戦だった。

 世界ランキングは日本の36位に対し、ベネズエラは17位。一次リーグでアジア勢としては唯一白星を挙げた日本は、パリ行きに近付いていた。

 8月31日、沖縄アリーナ。スタンドには日の丸の小旗が揺れた。

 日本は第1クオーター(Q)で4点のビハインド(15対19)を負った。4分39秒、エース渡辺雄太の放ったシュートがリングに嫌われたのが痛かった。

 第2Qも21対22。シュートの確実性を高めようとするあまりに積極性を欠き、ターンオーバーされる場面が目立った。

 第2Q終了時点での3ポイントの成功率は、日本が27.8%であるのに対し、ベネズエラは31.6%。日本の得点源がこのありさまでは、苦戦は免れない。

 悪い流れは続く。第3Qも17対21(合計で53対62)と劣勢を余儀なくされた。

 ランキングこそベネズエラが上位だが、日本には日程上のアドバンテージがあった。ベネズエラは連戦でこの試合を迎えたのに対し、日本は中1日だった。

 奇跡は起きるのか。第4Q、残り8分12秒の時点で、ベテランのハイスラー・ギレントにシュートを決められ、この試合最大となる15点差をつけられた。

 スタンドは意気消沈し、選手たちのシューズによる床をこする音だけが虚しく響き渡った。

 絶体絶命の状況下、救世主が現れる。33歳(当時)のシューティングガード比江島慎だ。

 13点差に詰めた残り7分18秒。比江島はセンターのジョシュ・ホーキンソンをスクリーンに使い、マーカーを外し、鮮やかな3ポイントを決めた。

 だが、敵もさるもの。ベネズエラのヘッドコーチ(HC)、フェルナンド・ドゥロは、ここでタイムアウトを要求した。何かを察知したのだろう。

 一方、日本のHCトム・ホーバスは、声を振り絞って選手たちを鼓舞した。

「Running! Running! Good screen!」

 時間は、まだある。残り5分37秒、比江島が右サイドから3ポイントを決め63対70に。一時は沈みかけていたスタンドが、再び熱気を取り戻す。

 残り5分を切り、比江島が2ポイント、3ポイントを連続で決め、アリーナの熱気は最高潮に達した。

 そして歴史に残るプレーが生まれる。残り1分55秒、スモールフォワードの馬場雄大が速攻を仕掛ける。マークを十分に引き付け、後方の比江島にノールックパス。救世主はファウルを受けながらも、左手でシュートを放ち、ネットを揺らした。

 ついに75対74と逆転。その後も日本は攻撃の手を緩めず86対77で試合終了のブザーを聞いた。

「チームを救うためにトムさんは僕をメンバーに残してくれたと思う。(勝利に)貢献できて嬉しい」

 と救世主。誰が名付けたか“比江島タイム”。2日後、日本はカーボベルデを下し、パリ行きを決めた。

二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森喜朗 スポーツ独白録」。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    芸能
    2026年05月27日 12:30

    問題発言をめぐる「あの×鈴木紗理奈」のバトルが、第2ラウンドに突入しようとしている。大騒動の発端となったのは、歌手・タレントのあのが出演する冠番組「あのちゃんねる」(テレビ朝日系)の、5月18日深夜の放送だ。お題に答えてシュートを決めるゲー...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    芸能
    2026年06月02日 12:30

    黒谷友香、市川由衣、勝地涼らが相次いで所属事務所から退所するとの発表が5月31日にあったが、一夜明けた6月1日、とんでもないトラブルに発展しそうな若手女優の事務所退所騒動が起きた。その女優は尾碕真花(おさき・いちか)。自身のインスタグラムで...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    スポーツ
    2026年06月03日 11:45

    通称「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物問題「エトミデート」事件で揺れる広島カープが「危険水域」に入っている。昨年12月に自宅で吸引使用した羽月隆太郎元選手は拘禁刑1年、執行猶予3年の実刑判決が確定。さらに自らTikTokで動画配信を行い、「...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/5/26発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク