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記事全文を読む→二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈沖縄で救世主となった比江島慎〉
「日本 VS ベネズエラ」バスケットボール男子W杯・2023年8月31日
2023年夏にフィリピン、インドネシア、日本の3カ国で行なわれたバスケットボールの男子ワールドカップ(W杯)は、2024年パリ五輪のアジア予選も兼ねていた。
1976年モントリオール大会以来、48年ぶりの自力での五輪出場を目指す日本にとって、難関と見られたのが、順位決定リーグO組初戦のベネズエラ戦だった。
世界ランキングは日本の36位に対し、ベネズエラは17位。一次リーグでアジア勢としては唯一白星を挙げた日本は、パリ行きに近付いていた。
8月31日、沖縄アリーナ。スタンドには日の丸の小旗が揺れた。
日本は第1クオーター(Q)で4点のビハインド(15対19)を負った。4分39秒、エース渡辺雄太の放ったシュートがリングに嫌われたのが痛かった。
第2Qも21対22。シュートの確実性を高めようとするあまりに積極性を欠き、ターンオーバーされる場面が目立った。
第2Q終了時点での3ポイントの成功率は、日本が27.8%であるのに対し、ベネズエラは31.6%。日本の得点源がこのありさまでは、苦戦は免れない。
悪い流れは続く。第3Qも17対21(合計で53対62)と劣勢を余儀なくされた。
ランキングこそベネズエラが上位だが、日本には日程上のアドバンテージがあった。ベネズエラは連戦でこの試合を迎えたのに対し、日本は中1日だった。
奇跡は起きるのか。第4Q、残り8分12秒の時点で、ベテランのハイスラー・ギレントにシュートを決められ、この試合最大となる15点差をつけられた。
スタンドは意気消沈し、選手たちのシューズによる床をこする音だけが虚しく響き渡った。
絶体絶命の状況下、救世主が現れる。33歳(当時)のシューティングガード比江島慎だ。
13点差に詰めた残り7分18秒。比江島はセンターのジョシュ・ホーキンソンをスクリーンに使い、マーカーを外し、鮮やかな3ポイントを決めた。
だが、敵もさるもの。ベネズエラのヘッドコーチ(HC)、フェルナンド・ドゥロは、ここでタイムアウトを要求した。何かを察知したのだろう。
一方、日本のHCトム・ホーバスは、声を振り絞って選手たちを鼓舞した。
「Running! Running! Good screen!」
時間は、まだある。残り5分37秒、比江島が右サイドから3ポイントを決め63対70に。一時は沈みかけていたスタンドが、再び熱気を取り戻す。
残り5分を切り、比江島が2ポイント、3ポイントを連続で決め、アリーナの熱気は最高潮に達した。
そして歴史に残るプレーが生まれる。残り1分55秒、スモールフォワードの馬場雄大が速攻を仕掛ける。マークを十分に引き付け、後方の比江島にノールックパス。救世主はファウルを受けながらも、左手でシュートを放ち、ネットを揺らした。
ついに75対74と逆転。その後も日本は攻撃の手を緩めず86対77で試合終了のブザーを聞いた。
「チームを救うためにトムさんは僕をメンバーに残してくれたと思う。(勝利に)貢献できて嬉しい」
と救世主。誰が名付けたか“比江島タイム”。2日後、日本はカーボベルデを下し、パリ行きを決めた。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森喜朗 スポーツ独白録」。
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