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Posted on 2024年08月24日 17:56

新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「恩讐の彼方に天龍が全日本復帰!その全ドラマ」

2024年08月24日 17:56

 2000年6月の三沢光晴をはじめとする選手、スタッフ30名の大量離脱で存亡の危機に立たされた全日本プロレスだが、7月1日のディファ有明で予定通りに「サマー・アクション・シリーズ」を開幕させることができた。

 それでも危機的状況は変わらない。旗揚げから17年8カ月続いた日本テレビの中継が打ち切られ、所属選手は川田利明と渕正信だけなのだ。

 7月2日、後楽園ホールにおける第2戦では、第2試合終了後に馬場元子オーナー、川田、渕、そして馬場のハワイの愛弟子マウナケア・モスマン(太陽ケア)がリングに上がり、選手の大量離脱についてファンに謝罪した。

 そして「今回の再スタートにあたり、私自身としても皆様の前で川田選手と握手していただきたい方に今日、来ていただいています」と元子オーナー。館内がざわめく中、一呼吸置いて元子オーナーの口から出てきた言葉は「天龍源一郎さんです!」。

 ウワーッという大声の中、天龍のテーマ曲「サンダーストーム」の雷鳴が鳴り響き、90年4月19日の横浜文化体育館以来、実に10年3カ月ぶりに天龍が全日本のリングに上がった。

 渕、川田、モスマンと握手を交わした天龍は、両手で元子オーナーの手を握り締める。まさに恩讐を超えての再会劇だ。

 マイクアピールすることなく、無言でリングを降りたところに天龍の万感の思いが見て取れた。

 実は遡ること15日前の6月17日、私のプロレス業界での師匠・日本スポーツ出版社の竹内宏介社長から筆者に電話がかかってきた。元子オーナーが会社の全体ミーティングで、残ったスタッフに希望を聞いたところ「天龍さんに戻ってきてほしい」という意見が飛び出し、それに他のスタッフ全員が同調したのだという。そこで元子オーナーはどうしたものかと竹内社長に相談したという。当時、竹内社長は元子オーナーのブレーン的な立場だった。

 天龍の復帰を切り出したのは木原文人リングアナウンサーで、他のスタッフが同調すると元子オーナーは「あなたたち、天龍さんを上げるのはどういうことなのかわかる?」と困惑し、和田京平レフェリーに「京平はどう思うの?」と聞いたが、和田レフェリーが「それは元子さんが決めてください」と答えると、元子オーナーは部屋を飛び出して1時間戻ってこなかったという。その間に竹内社長に電話を入れたのだろう。

 元子オーナーは「みんなが望むなら、私にもこだわりはないけど、天龍さんはどう思うかしら」と竹内社長に相談。竹内社長は天龍番記者だった筆者に、天龍の気持ちを確かめてほしいとのことだった。

 翌18日は、青山斎場で5月13日に急逝したジャンボ鶴田の献花式。筆者は式に参列した後、天龍夫妻と会った。当時の天龍は50歳。天龍個人だけでなく天龍家‥‥嶋田家の家族の問題でもあるだけに、まき代夫人にも同席してもらって事情を説明したのだ。

「みんなが望んで、元子さんも望んでいるなら」と前向きな天龍に対して、まき代夫人は当初「天龍にはこれ以上、苦労してほしくないの。店(桜新町で経営していた鮨處「しま田」)も順調だし、自分のペースで残りのプロレス人生を送ってほしい。また昔のように揉めてしまったら‥‥」と反対の姿勢だったが、最終的には「10年間いろいろあったけど、今はこうしてちゃんとやっていますというのを見てもらう意味でも、店に来ていただいたら」と、天龍の気持ちを尊重した。

 そうしたやり取りを竹内社長に報告すると元子オーナーは翌19日には天龍に電話を入れ、20日には運転手役の和田レフェリーとともに「しま田」を訪れた。

 自ら天龍に連絡して店に足を運んだ元子オーナーの英断と、その気持ちに応えて残りのプロレス人生を全日本に捧げようという天龍の男気が合致。10年の歳月を経て天龍の全日本復帰が決定したのだ。

 ただ、この天龍の全日本復帰に複雑な思いを持つ男がいた。かつて天龍同盟に在籍し、天龍離脱後も全日本に残って四天王の1人として、三沢らの大量離脱後も残留を表明して10年間体を張ってきた川田である。

 7月2日、川田は10年間封印していたレボリューション・ジャケット(天龍同盟のコスチューム)を「天龍さんが返ってきても、今のリングにレボリューションという文字は落っこちていないから、返したい」と後楽園ホールに持参。

 天龍の全日本復帰戦はシリーズ最終戦の7月23日に日本武道館で天龍&川田VSスタン・ハンセン&モスマンとして行われた。天龍と川田は90年4月7日の高知における天龍同盟解散マッチ以来に組んだが、どこかギクシャク。試合は天龍が譲る形で川田がパワーボムでモスマンを押さえたが「何で俺が今さら天龍さんと組まなきゃいけないんだよ?」と不満を露にした。

 川田の目は遅々として進展しない新日本プロレスとの対抗戦に向いていた。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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