猛暑列島にもようやく秋の気配が漂い始めたが、秋は梅雨時とともにマダニが大量発生する季節であり、マダニによる被害が多発する危険な時期でもある。
マダニは目に見えないほど小さい家ダニなどとは違い、体長が3ミリから10ミリにも達する大型のダニである。山野のみならず、街中のちょっとした植え込みの近く、例えば都心の屋外ベンチなどにもウヨウヨ棲息しており、人間の皮膚に食いついて吸血する機会をうかがっている。
マダニは人間の皮膚に取りつくとまず、太腿などの柔らかい部分に口器を差し込み、セメント状の物質を出して地固めをする。この時、麻酔作用のある唾液が同時に注入されるため、食いつかれていることに気付かないケースは多々ある。
その後、数日から10日くらいかけてゆっくりと吸血していき、吸血後は5ミリ程度だった体長が10ミリから20ミリへと膨れ上がっていく。
吸血が終わると自然に皮膚から離れていくが、吸血中のマダニを皮膚から取り払おうとすると、マダニの口器が皮膚に突き刺さったままの状態に陥る。したがって、吸血中のマダニを発見した場合は、そのままの状態で医療機関を受診し、適切な処置を受ける必要がある。
なんとも不気味な生態と言っていいが、さらに恐ろしいのがマダニ感染症だ。
マダニは重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ライム病、日本紅斑熱などの致死的な感染症を媒介する。中でも恐ろしいのがSFTSで、マダニに食いつかれてから6日から14日間の潜伏期間を経て、発熱、全身倦怠感、腹痛、下痢、嘔吐、リンパ節腫脹、頭痛、出血、筋肉痛、神経症状などの激烈な症状が出現する。しかも、現時点で有効な治療薬は存在せず、感染後の致死率は30%にも達するのだ。
これからのシーズンは、登山やハイキングに出かける際はもちろん、街中でもマダニに対する警戒を怠ってはならない。
(石森巌)