日本将棋連盟の羽生善治会長が、Xで異例の呼びかけをした。人探しだ。問題の投稿によると、
〈先程達人戦のイベントから戻りました。実は今日の午後に電車で立川へ向かう途中、お隣に座った男性が突然涙され、何か悲しい事があったのだろうか、、〉
そう心配していたところ、号泣していた男性から声をかけられたという。
〈「隣に座れて光栄でした。」と感激され、嬉しい言葉を掛けて頂きました。別れ際に是非受け取ってくださいと贈られた詩集を帰宅して拝読しました。誰かを思いやる言葉に溢れていて、心が温かくなる詩集でした。わたしも慌ただしい日々の中で疎かになる自分の気持ち、相手の気持ち、口に出す言葉など、忙殺されて走るばかりでは決して気付けない大切な事を足を止めて考える気付きを頂きました。どうもありがとうございました。Xで届くかわかりませんが、一言お礼をお伝えしたくポストした次第です〉
羽生会長は贈られた詩集の写真もアップ。「ONE LOVE SONG」という書名の表紙には寄り添う2匹のクマのイラストが描かれ、羽生会長の温かいコメントと実にマッチしている。ユーザー同士の誹謗中傷が飛び交うXの中で、そこだけが優しい世界を作り出していた。
羽生会長の気持ちが届くようにと、多くの将棋ファンがこの投稿をシェア。コメントとシェアが繰り返され、羽生会長の投稿から24時間後、日付も変わろうとする深夜に、羽生会長の思いは贈り主のもとに届けられた。
詩集の贈り主はkeiさん。Xに寄せられたご本人の弁によると、keiさんが詩を書き、keikoさんがイラストを描く創作活動をしており、羽生会長に贈ったのは自費出版した詩集だという。優しいメッセージを添えたLINE動物スタンプも発売中だ。
心温まる交流に、50歳以上の棋士が集う「達人戦」出場者と同世代のユーザーから「こういうこと書く羽生さんだからずっと応援してる」「実は自分もJR車内で羽生さんを見たことある」「もし羽生さん見かけたら20代の頃を思い出して自分も泣く」という、優しい世界のコメントリレーが続いた。
前年に同タイトルを優勝した羽生会長だが、11月3日に東京都立川市で行われた準々決勝第1局で行方尚史九段に118手で敗れ、連覇を逃した。藤井聡太7冠ら若手棋士の、息をするのも忘れるほどに鬼気迫る「動」もいいが、ベテラン棋士ならではの「静」の対局、そして対局中の羽生会長を間近に見ることができる「達人戦」の、来年以降の観戦をぜひお勧めしたい。
(那須優子)