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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「格闘技への対抗策はIWGP王者VS三冠王者」

 1990年代半ばから続く格闘技ブームの中、2004年1月4日の新日本プロレスの東京ドームは、全日本プロレスの社長兼エースの武藤敬司が2年ぶりに古巣登場、1年2カ月前に退団してWJプロレス旗揚げに参戦するもフリーになった佐々木健介、パンクラスの鈴木みのる、ノアの杉浦貴らの参戦で5万3000人の大観衆を集めてプロレス健在を証明した。

 それでもK‒1、PRIDEの勢いは衰えることなく、プロレスは押され気味だった。特に格闘技志向のアントニオ猪木のオーナー強権によりK‒1との格闘技ルールによる対抗戦を行わなければならないなど、プロレスと総合格闘技の狭間で迷走を続ける新日本のダメージは大きかった。

 6月23日の株主総会で藤波辰爾が社長職を解かれて取締役副会長になり、新社長には猪木の経営顧問を務める草間政一が就任。遂に新日本にプロレスラー以外の社長が誕生した。さらに猪木の娘婿のサイモン猪木も取締役に名を連ねた。

「猪木さんは〝藤波は煮え切らない〟と。僕にしてみたら煮え切らないんじゃなくて、猪木さんのやりたい部分と、現行の新日本プロレスを調和させることが願いであり、何で新日本プロレスの現実をわかってくれないのかなっていう気持ちでしたね。四十何年間の猪木さんとの付き合いの中で新日本社長時代は対峙していました」と藤波。

 02年から現場責任者の蝶野正洋の右腕としてマッチメークを担当していた、上井文彦取締役も10月31日付で退社。04年の新日本マットは上井が力を注いだ天龍源一郎、佐々木健介、高山善廣、鈴木みのるの〝外敵軍団〟を軸に展開されていただけに、退社は痛手だった。

 そうした中、新日本に代わってプロレス業界の盟主となったのが、格闘技とまったく交わることなく純プロレス路線を貫くノアだ。

 7月10日に東京ドームに初進出し、三沢光晴&小川良成VS武藤敬司&太陽ケアのノアVS全日本対抗戦というドリームマッチが実現。そのお返しに7月18日の両国国技館で、三沢が4年ぶりに古巣・全日本に上がり、小島聡との一騎打ちに勝利した。全日本の社長の座を捨てて00年6月に退団、ノアを旗揚げした三沢だが、武藤体制の全日本に上がることについては何もわだかまりはなかった。

 さらに三沢は10月31日の両国における武藤20周年記念試合にも出場。武藤とコンビを組んで佐々木健介&馳浩に快勝した。

 もちろん新日本とノアの関係は続いていたし、新日本と全日本も良好で、6月12日の全日本・名古屋大会でケンドー・カシンと永田裕志が越境タッグを結成して、小島&カズ・ハヤシから世界タッグ王座を奪取した。

 かつて仁義なき企業戦争を繰り広げてきたプロレス界だが、この時代になると潰し合いではなく、共存共栄することで格闘技ブームに対抗しようという意識が高まっていたのである。

 しかし04年の年末は格闘技一色に染まった。大晦日の大阪ドームにおけるK‒1主催「ダイナマイト」は超満員札止め。5万2918人を動員して、TBSテレビの平均視聴率は20.1%。魔裟斗VS山本〝KID〟徳郁は瞬間最高視聴率31.6%を記録して、民放の同時間帯の番組で初めてNHKの「紅白歌合戦」を抜いた。同日、さいたまスーパーアリーナで開催された「PRIDE 男祭り」も、同所新記録の4万8398人を動員する大盛況だった。

 その4日後の年明け05年1.4東京ドームの猪木主導の「闘魂祭り」は満員マークが付かない4万6000人。メインイベントでは新日本の未来を担う中邑真輔が棚橋弘至からU‐30無差別級王座を奪取する好試合だったが、同じリング上で格闘技戦を2試合同時に行うというバトルロイヤルと格闘技をミックスさせた猪木発案の不可解な「アルティメット・ロワイヤル」が大不評。結果的に新日本はこの大会で崖っぷちに立たされることになった。

 13日後の1月17日、新日本が起死回生策として発表したのが、2.20両国国技館での新日本のIWGP王者・天山広吉と全日本の三冠王者による初のダブルタイトル戦。同じ日にさいたまスーパーアリーナで開催される「PRIDE29」に対抗するという意味もあった。

 大会4日前の2.16代々木で王者・川田利明VS小島の三冠戦があるために、三冠王者が確定しないままでの異例の会見。全日本の渕正信取締役の「ウチの三冠とIWGPが同格に扱われるのは納得がいかない」というコメントが当時の両団体の力関係を物語っていた。

 そして2.16代々木では小島が最多防衛記録V10を誇る川田を撃破して新王者となり、ダブルタイトル戦はテンコジ対決に決定。直前のカード決定にもかかわらず超満員札止めの1万1000人を動員した。

 試合はともに団体の看板を背負う死闘になり、60分時間切れになるかと思いきや、59分49秒に天山が脱水症状で戦闘不能に陥り、小島がKO勝ちという劇的な幕切れとなった。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

写真・ 山内猛

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