政治

“全世界からタブー視される”国際ニュースに潜む怪人列伝〈イーロン・マスクとJDバンスに影響力を持つ男〉

 前回は、ウクライナのゼレンスキー大統領にケンカを売った米国のJDバンス副大統領を紹介した。また今年1月の本欄では「世界一の危険人物」としてトランプ政権の中枢で大暴れしているイーロン・マスクを紹介した。いずれも国際ニュースに潜んではいないオモテの人物だが、超のつく”怪人物”で、しかもそのトンデモぶりが与える世界への悪影響がきわめて大きい。

 そんな2人のVIPに多大な影響を与えた人物が、ピーター・ティールという起業家だ。もともとマスクのビジネス・パートナーであり、バンスにとっては師匠でもある。彼はベンチャー投資家として成功した大富豪だが、政治的には右派で、米国の極右運動に多額の資金を提供してきた。特に16年の大統領選時からトランプの大口の支援者で、第1期トランプ政権発足時の政権移行チームの執行委員も務めた。18年の中間選挙や20年の大統領選でも、共和党やトランプを資金援助した。

 22年の中間選挙ではトランプ派の共和党候補者への最大の支援者となり、候補者16人に総額30億円以上もの支援を行った。その中のひとりが、バンス副大統領である。バンスは本業がベンチャー投資家で、もともとティールの下で働いていたという関係があった。

 ティールは現在のトランプ政権からは離れているが、大言壮語なタイプの怪人物で、さまざまな先進的な分野に乗り出して注目されてきた。かつて電子決済サービス「ペイパル」を起業して大成功したが、当時、同社には多彩な人材が集まっており、彼らはペイパルから離れた後も各自、新規ビジネスを次々と成功させた。そんなペイパル出身者たちはティールを中心に親しい関係を維持しており、ベンチャー業界で「ペイパル・マフィア」と通称されている。ちなみにペイパル・マフィアの最大の出世頭がイーロン・マスクだが、ペイパル人脈の中心人物はやはりティールだ。

 ティールは67年に西ドイツで生まれたが、1歳時に家族で米国に移住し、米国籍となった。スタンフォード大学で哲学を専攻したが、その後、同大ロースクールを出て、証券弁護士などを経て自身のベンチャー投資会社を設立。98年に電子商取引会社「コンフィニティ」を創設し、99年に同社でペイパルをスタートさせる。同社はその後、マスクの金融サービス会社「Xドットコム」と合併し、急成長。社名もペイパルに変更するが、02年に売却。それでティールやマスクは個人で巨額の資金を手にした。当時、ティールは35歳、マスクも31歳という若さだった。

 ティールはその後、複数の投資会社に加えてビッグデータ解析会社「パランティア」などを次々と設立する。これらの投資会社を通じてさまざまな新技術分野のベンチャー企業に巨額の投資を行った。「フェイスブック」への最初の外部投資家でもあった。仮想通貨やAIへの投資でも知られる。また、世界的な影響力を持つ人物や企業の代表が集まるビルダーバーグ会議の運営委員でもある。先駆的な技術分野への論評を盛んに行うと同時に、完全自由主義(リバタリアニズム)の哲学的な言動も多く、単なるビジネスマンというよりも思想家の面も注目されている。ベンチャー企業のみならず、大資本企業や共和党関係者など、幅広い人脈を持ち、そうしたキーマンたちを繫ぐフィクサーとしての影響力も大きい。

 いずれにせよ、ティールとマスクという2大スターを生んだペイパルの人脈は、錚々たる顔ぶれだ。

 たとえばリード・ギャレット・ホフマン。彼はアップル、富士通ソフトウェアの社員を経て「ソーシャル・ネット・ドットコム」を起業。その後、ペイパルの最高執行責任者となる。ペイパル売却後は事業用SNS「リンクドイン」を創業し、成功した。同社の起業ではティールが出資している。彼は自身でもさまざまなベンチャーに投資し、大富豪になっている。世界のVIPが集うダボス会議や前出のビルダーバーグ会議の常連で、米政府の外交問題評議会の会員でもある。

 あるいは、チャド・ハーリーは「ユーチューブ」の創業者として知られる。彼は大学卒業後にユーザインターフェース(機器やソフトウェア、システムなどとその利用者の間で情報をやり取りする仕組み)のデザイナーとしてペイパルに入社。やはりペイパル売却で資金を得て、ペイパル時代の盟友2人とユーチューブを起業し、最高経営責任者を務めた。翌年、ユーチューブをグーグルに売却して大金を得た。

 なお、ユーチューブの共同創設者となったペイパル時代の同僚は、スティーブ・チェンとジョード・カリムである。チェンは台湾系米国人でコンピュータ技術者。ユーチューブでは最高技術責任者を務めた。カリムはドイツ系のコンピュータ技術者で、ユーチューブで最初の動画を投稿した人物として知られる。ユーチューブは今や世界で知らぬ者のいないサービスだが、それを作ったのは当時20代半ばだった3人の若者で、彼らもペイパル・マフィアの成功者である。

 ピーター・ティールを中心とするペイパル・マフィア人脈には他にもベンチャー起業家あるいは投資家として成功した人物が数多くいるが、最後に変わり種を紹介したい。

 起業家であり、投資家であり、さらに極右活動家であり、トランプ政権高官でもあるデビッド・オリバー・サックスだ。彼は南アフリカ系で、スタンフォード大学とシカゴ大学ロースクールに学び、マッキンゼー社で経営コンサルタントになったが、ティールが創設したばかりのコンフィニティに参加。ペイパルの事業担当となり、その後、同社の最高執行責任者を務めた。その後、彼は企業向けSNS開発会社やベンチャー投資会社を設立し、数多くのベンチャー投資で大成功した。

 サックスは成功したビジネスマンでありながら、極右の論調のポッドキャストでも人気を博している。反ワクチン陰謀論者で本欄でも紹介済みのロバート・ケネディJr.保健福祉長官やトランプの募金活動にも参加。共和党大会で演説もしている。プーチン支持者でもある。現在、彼はホワイトハウスのAI・暗号資産責任者及び大統領科学技術諮問委員会の委員長にも任命されている。

黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)

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