政治

“全世界からタブー視される”国際ニュースに潜む怪人列伝〈怪しい軍師たち〉

 現在上映中の映画「パリピ孔明 THE MOVIE」が好調だ。主人公は三国志の英雄のひとりである中国の天才軍師・諸葛孔明。彼が現代日本にタイムスリップし、女性シンガーのヒロインを音楽フェスのバトルで勝たせるべく活躍するというストーリーである。そこで今週は、現代の国際政治で注目される“軍師”、つまり「権力者を支える有力な側近」を紹介してみたい。

 まずは米国。トランプ大統領を支える懐刀が、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官である。彼は85年生まれの39歳。高校時代から政治的な言論活動を始め、大学卒業後に下院議員の報道担当スタッフ、上院議員のスピーチライターとなる。その実力を認められ、16年の大統領選でトランプのスピーチライターに採用され、そのまま腹心となった。17年のトランプ第1期政権発足時に政策担当上級顧問/演説原稿責任者に就任。当時、ミラーはまだ31歳。政治経験のまったくない側近のホワイトハウス高官への抜擢は注目された。

 ミラーはトランプが思いつく異例な政策の推進役を担った。第1期は特に移民排斥政策で中心的役割を果たしたが、20年選挙でトランプが敗北した後も、一貫してトランプ側近として活動。移民排斥などトランプの反リベラル的な姿勢はミラーが牽引した。25年1月の第2期トランプ政権では次席補佐官(政策担当)兼国土安全保障担当補佐官に就任する。

 トランプ本人からの信頼が厚く、彼がごく少数の側近たちとどんどん突拍子のない政策を打ち出していく際にも、そのまとめ役を担っている。トランプの出す大統領令の多くも、実際にはミラーが起草していると言われ、実質的にいちばん影響力がある側近と言っていい。

 トランプは5月1日に、情報漏洩問題で批判を受けていたウォルツ国家安全保障担当補佐官の解任を発表し、同4日には「後任を半年以内に選ぶ」と発言したが、その筆頭候補にミラーの名前が挙がっている。仮にミラーがその要職に就けば、米国ファーストで偏狭な差別意識の高い内向きの安全保障政策がより強化されるだろう。米国はますます孤立し、世界はさらにロシアや中国に有利な状況になっていく。

 そのロシアだが、現在もプーチン独裁は揺るがず、事実上のナンバー2というほどの存在はいない。だが、そんな独裁者も現在72歳。今年3月にはウクライナのゼレンスキー大統領が「プーチンは高齢で、もうじき死ぬ」と発言して話題になったことがあるが、実際、今後いつまでも健在というわけではあるまい。

 そこで注目されるのが後継者候補だが、これもまだ決定的な有力候補がいない。プーチンに健康不安があった時に大統領代行を務めることになるのはミハイル・ミシュスチン首相(59)だが、彼はあくまでテクノクラート官僚であり、政治権力者タイプではない。

 過去に下馬評にあがった人物に、ドミトリー・パトルシェフ副首相(47)もいる。彼の父親はプーチンの古株の同志のニコライ・パトルシェフ元国家安全保障会議書記(元FSB長官)であり、後見人としては最強だが、ドミトリー自身は銀行家出身で、父のコネで農業相を務めたことがある程度だ。プーチンの後継者としては物足りない。

 そんな中、ここに来て急浮上してきた人物がいる。アレクセイ・デュミン大統領補佐官兼国家評議会(=大統領の諮問機関)書記だ。彼は72年生まれの52歳。大学卒業後にFSB将校となり、その後、政府高官を警護する連邦警護庁(FSO)に異動した。99年、プーチンの護衛担当となった。当時、デュミンは27歳だった。

 それから彼は、プーチンに長く仕えた。07 年には首相警護責任者となり、12年にはFSOでも大統領を警護する「大統領警護局」の副局長に就任した。たまたまプーチンの護衛担当だった男だが、プーチンと個人的に近かったことで、彼は権力の階段を駆け上がる。14年には軍の情報機関「参謀本部情報総局」(GRU)の副長官、翌15年にはロシア陸軍参謀総長・第1副司令官からさらに国防副大臣となるのだ。

 プーチン側近として軍の要職を歴任した後、16年にはプーチンの指示で政治家に転身。いきなりトゥーラ州知事となる。彼はその地位で政治家としてキャリアを積み上げ、24年5月、今度は権力中枢の要職である大統領補佐官兼国家評議会書記に大抜擢されたのだ。

 こうして一躍デュミンは、プーチンのお気に入りとして政界の要人となった。有力なプーチン後継候補と言っていいだろう。ではこのデュミンの特徴は何かと言えば、とにかくプーチンに忠義を尽くしてきた人物ということと、軍に抑えが効く経歴ということだ。仮に彼が権力を手にした場合、プーチン路線がそのまま継続ということになるだろう。

 中国はどうか。習近平の独裁も健在で、突出したナンバー2はいないが、側近の中でクセモノ的な存在が、王小洪・公安部長である。57年生まれの67歳。地方の公安畑のキャリアを持ち、福州市公安局長、福建省公安庁副庁長、廈アモイ門市副市長(兼公安局長)、河南省副省長などを歴任。その頃、独裁権力を強化しつつあった習近平に取り立てられて、15年に北京市副市長(兼公安局長)、16年に公安部副部長に抜擢。22年6月、ついに国家権力装置のトップである公安部部長に就任した。

 中国の権力上層部の力関係は複雑で、習近平以外は安泰ではないが、国内の権力闘争のキーマンは王小洪で、その動向は今後も注目される。

 最後に、イランの独裁者であるハメネイ最高指導者の“軍師”も紹介しておこう。長男のモジタバ・ハメネイである。彼は69年生まれの55歳。イランは世襲制ではないが、最高指導者は高位聖職者の地位が必要であり、彼は優先的にイスラム神学を学んで聖職者としての地位を上げている。同時にイスラム革命防衛隊の民兵組織「バシージ」の幹部指揮官として経験も積んでおり、軍に人脈もある。また、イランでは政府・大統領以上に権力がある「最高指導者室」(ハメネイの官房組織)を長年にわたって非公式に取り仕切ってきた実績もある。父・ハメネイはすでに86歳。世襲の可能性はきわめて高い。

黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)

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