猫を飼ってみて、こんなにマチマチなのはどうしてなのかと不思議になるのが「尻尾」だ。スラッと長いものもあれば、ボンボンみたいに丸まり、曲がっている鍵尻尾も。不便だったり、生きている感覚が違ったりはしないのか。
実は筆者の3匹の飼い猫たるガトー、クールボーイ、そうせきも、マチマチだ。ガトーがカタツムリみたいな鍵尻尾、クールボーイとそうせきは長い尻尾だが、そうせきはとにかく細くてやたら長く、先端部分がやや曲がって鍵っぽくなっている。
逃げ回るそうせきを捕まえて尻尾の長さを計ってみたら、30センチ超。写真でも明らかなように、まるで短剣だ。体の右を床につけて寝転ぶ時は、尻尾をU字型のフックのように折り曲げる癖があるが、長いからサマになる。
一方、ガトーの尻尾はフサフサしていて、根元は太いのだが、そこから先は殻の中のツブ貝の身のようにクルクルして、先端が一気に細くなる。小さなアンモナイトのようでもある。長さは根元から5~6センチもあるかといったところ。しかも先っぽの1センチくらいが柔らかくて、自由に動く。
用を足す時や立ち上がった時に尻尾を持ち上げるのだが、その姿はお尻にボールが乗っかっているように見える。体重10キロ前後の巨体の尻尾がこれだから、コミカルだ。筆者がトイレに入っている時にやってきて、便座周辺をウロウロしているうちにパンツに尻尾が引っかかって、こちらが大慌てすることもある。
さて、それでは長い尻尾、鍵尻尾の便利、不便はあるのか。尻尾の役割のひとつは例えば、狭いベランダの壁の上、柵の上を歩く時などに体のバランスを取ることにある。つまり、細いところを歩く際のバランサーだ。
ピョンピョン飛び跳ねるそうせきが尻尾で体をバランスをうまくコントロールしているのは、わかる気がする。2階から1階への階段をマッハの速さで飛び降りるが、体のバランスと動体視力がズバ抜けているのは明らかだ。
一方のガトーは重い体の前足を1段ずつ進めながら、トントントンと降りる。だがそれが不便そうではなく、それなりにリズミカル。階段を降りる時は長くてもチンチクリンでも関係がなさそうだ。それどころか、ガトーは2階を上がった階段の手摺の、平になっている狭いところに難なく飛び乗ることでがきる。
自宅1階には、高さ2メートル近い飾り棚が置かれている。下半分には引き出しなどがあり、上半分は鏡などで、頂上に猫が入れるほどの空間、へっこみがある。そこにはクールボーイだけでなく、ガトーもいとも簡単に飛び乗る。とにかく尻尾は猫の動きには、あまり関係なさそうなのだ。
さて、クールボーイはそうせきほど長くはないが、平均よりも長めだと思う。脱走歴2回なので、ベランダには基本、出さないようにしているが、家の中での動きはそうせきよりも、やや緩慢か。階段を降りる速さも、そうせきと比べたら半分くらい。かといって、それが尻尾と関係があるとも思えない。
そう考えると、猫の尻尾の長さは我が家の3匹の場合、たまたま長いか短いか、というのが結論だ。
話は変わって、面白いのはその時々の気持ちを尻尾で表現すること。尻尾の動きで、何数種類も異なる感情を主張するそうだ。
3匹の中で最もユニークなのはクールボーイだ。お腹がすくと近づいてきて、ギャーギャーわめく。そんな時に「銀のスプーン」の缶詰や「ちゅ~る」をあげると、うれしそうに食べる。その際、尻尾を床と平行に浮かし、左右にユラユラさせながら、先っぽの数センチをクネクネさせる。「おいしい、おいしい」と尻尾で表現しているのだ。
尻尾が突然、タワシのようにブワッと膨らむことがある。尻尾が長いそうせきの場合、ほこり取りのはたきみたいになるので「どうした!?」と、つい言ってしまう。そうなるのはクールボーイとじゃれ合っているうちに、本気の喧嘩モードになる時だ。威嚇、あるいは恐怖心を表現しているのだそうだ。これはクールボーイにも見かけることがある。
もっとも、ガトーの鍵尻尾では、それができない。時々、短い尻尾を立てたまま、プルプル震わせている時がある。うれしくて興奮しているとか、飼い主にかまってほしい時の動きだという説があるが、こういう時のガトーはごはんの器があるところにいることが多く、「腹減った」の表現かもしれない。
病気で死んだハチワレ猫のジュテも、尻尾が長かった。我が家の猫だけではわからないが、黒系の猫は尻尾が長いのだろうか。
(峯田淳/コラムニスト)