古巣との第1ラウンドは出番ナシ、第2ラウンドとなった6月11日の巨人戦で、秋広優人が8番レフトで出場。2回の第1打席で得点に絡む二塁打を放った。
「ソフトバンクに来て変わった」
そんな声が多く聞かれる。
リチャードと秋広、大江竜聖の交換トレードが成立してから1カ月が経った。移籍後の秋広を追ってみると、12試合出場で30打数7安打。打率は2割3分3厘だ。それまで巨人では5試合出場の7打数1安打だったから、「移籍を機に打撃開眼」とまではいかないまでも、古巣サイドから「変わった」の声が聞かれるのは、その打撃フォームだ。
「バットを後ろに引かず、構えた位置からそのままボールに当てるスイングになりましたね」(巨人関係者)
ここで思い出したのが、巨人・阿部慎之助が指揮官となって初めて迎えた昨春キャンプでの出来事だ。臨時コーチを託されたOBの松井秀喜氏は、「後ろに体重を残しつつ、上半身は後ろに、右足は投手側に向かっていく打撃フォーム」を秋広にレクチャーしていた。阿部監督はすぐ近くでそれを見守っていた。
上半身と下半身が初動で逆方向にいく打撃フォームは「割れを作る」と言われる。阿部監督の現役時代は、そんな打撃フォームだった。「割れ」はホームランバッターに多く見られるスタイルで、おそらくは阿部監督に頼まれて松井氏が指導したのだろう。
秋広の当時の背番号は55。しかし秋広は阿部政権では覚醒できず、ファームで苦しんでいた。
「秋広は軽打で内野手の頭を越すようなバッティングが好きなんです。スタンド中段まで放り込む素質があるのに…。巨人の首脳陣は『もったいない』と嘆いていました」(前出・巨人関係者)
どうやら今、ゴジラ打法とは完全に決別したようである。首脳陣の指導と本人が目指す方向が違った。そうなれば、最後は本人の意思を尊重するしかないだろう。
気になる数値もある。移籍して12試合に出場したが、まだ本塁打も打点もついていない。ホームランは軽打スタイルに代えたからわかるが、打点ゼロは気がかりだ。
「先発投手は走者を出したら、ギアをワンランク上げてきますから」(前出・巨人関係者)
ギアが上がった投球を弾き返すことができなければ、ソフトバンク首脳陣は厳しい判断を下すだろう。これからの秋広から目が離せない。
(飯山満/スポーツライター)