京セラドームのスタンドがざわめいたのは、オリックス×DeNAのセ・パ交流戦(6月12日)、4回裏のことだった。DeNAの先発投手トレバー・バウアーが無死一・三塁で若月健矢を空振り三振に仕留めた直後、中川圭太が二盗を敢行。二塁手・牧秀悟のグラブは映像上、走者の手前に先に届いているように見えたが、判定はセーフ。DeNAの三浦大輔監督はリクエストを要求したものの、覆らず。その後、廣岡大志にセンター前ヒットを浴びたバウアーは、決勝点を献上することになった。
試合後、バウアーは自身のXにスロー映像を投稿して「これほど明白なアウトを見逃すなら、リプレーの意味はどこにある」と批判。四死球5と荒れた投球内容のごとく、判定への不信感を爆発させた。
今季のリプレー検証をめぐる論争は、これだけにとどまらない。5月27日のヤクルト×中日戦(神宮球場)の8回表、一死一塁で川越誠司が放った右翼ポール際の飛球を、一塁塁審がファウル判定。中日の井上一樹監督はリクエスト権を行使したが、約3分の検証でも判定は覆らず。
その後、NPBは中日に「独自検証で本塁打と判断できる映像を確認したが、当日の検証では活用できなかった」と説明した。球場と中継放送局によって異なるが、プロ野球ではおおむね10台前後のカメラと数台のハイスピードカメラが運用されている。ここで映像角度の不足が露呈したのである。
元ソフトバンク取締役で桜美林大学教授の小林至氏は、自身のYouTubeチャンネル「小林至のマネーボール」(6月11日公開回)で川越の「幻弾」を検証すると、次のように断じている。
「リプレー室に送られる映像は、放送フィード頼み。NPBがカメラ台数、設置角度、フレームレートを統一管理しない限り、今回のような齟齬はなくならない」
さらに判定対象の範囲にも触れて、
「ハーフスイングやファウルチップ捕球は、いまだリクエスト対象外。運用範囲を拡大しなければ、根本的な改善には至らない」
リプレー検証は2018年の本格導入から、8季目に入った。判定を覆すには「明確かつ決定的な映像証拠がある場合のみ」という大原則は不変だが、映像の質と量、対象プレーの見直しはなお、発展途上にある。カメラの死角や伝送トラブルで「証拠不十分のまま判定維持」となるケースはあとを絶たず、バウアーの投稿は選手の不満を改めて顕在化させた。
NPBは5月末、中日に対し「リプレー検証制度の改善を進める」と回答しているものの、追加カメラの常設や判定根拠の文書開示範囲拡大については、詳細を公表していない。透明性と技術面の強化策をどこまで実行に移せるかが、今後の信頼回復の鍵となる。
ストライクゾーンの揺らぎに加え、リクエストでも疑念が残れば、試合の流れは簡単に変わる。技術は判定を完全に自動化する万能薬ではないが、映像を最大限に活用して誤審を最小化する努力こそが、プレーする側と見る側の納得につながる。カメラの視点不足か、人間の判断か。6月12日の京セラドームで起きた一瞬の出来事は、検証制度の「次の一歩」を強く促している。
(ケン高田)