野球評論家の高木豊氏が、今シーズンに多発している「リクエスト問題」に切り込んだ。
「判定はグラウンドにいる審判4人ではなく、球場外のリプレーセンターで下すべきだ」
6月16日の自身の動画配信でこう訴え、審判が「最初の判定を崩したくない」という心理が明白な誤審を温存していると喝破したのである。
高木氏が示したのは、MLBニューヨーク・リプレーオペレーションセンターを手本にした仕組みだ。マンハッタン・チェルシー・マーケット内の同施設には30球場から高精細映像がリアルタイムで集まり、現役・退職ペアの審判が平均約60秒で映像を裁定。試合後には「Replay Review Report」としてプレーごとの判定結果をウェブ公開し、その根拠も要約して示す。高木氏はこれにならい、NPBにも独立したセンターを設け、現場の審判と判断権を切り分けるよう訴えている。
併せて提案したのが「秒数貯金制」だ。ピッチクロックで先発投手がテンポよく投球した余剰秒をリリーフ陣に持ち越せる、という独自の視点による仕組みで、試合全体のリズムが速まれば審判の集中力が持続しやすく、判定精度の底上げにつながるという理屈だ。
その背景には、今季各地で相次ぐ「覆らないリクエスト」がある。最も象徴的だったのは6月12日、オリックス×DeNAの4回裏。中川圭太の二盗を牧秀悟のタッチで刺したように映像が示すのに、判定はセーフ。リクエストでも支持された直後、廣岡大志が右中間へ勝ち越しタイムリーを放ち、被弾したトレバー・バウアーはXに「リプレーに意味はあるのか」と怒りをぶつけ、多くの共感を生んだ。
他にも類似事例がある。5月27日のヤクルト×中日戦の8回表、川越誠司の右翼ポール際の打球がファウル判定のまま、リクエストでも変わらず、翌日、NPBが「映像を現場に共有できなかった」と謝罪した上で、その後に「本塁打たる映像を確認した」と報告。技術的な映像共有の欠陥が、勝敗を左右する結果となった。
そんな審判側の事情が明かされたのは、元審判員・坂井遼太郎氏のYouTubeチャンネル「審判のさかい」の動画「リプレー検証の限界」だ。NPBのリプレー検証が、あくまでテレビ中継映像に依存している点を指摘。球場ごとにカメラの配置やアングル、フレームレートにばらつきがあり、ベース周辺の決定的シーンが捉えられないケースがあると説明している。映像で確証を得られないまま判定が支持される事例があとを絶たず、設備の差を放置すれば誤審は解消しない、と警鐘を鳴らしている 。
Xでは「#威厳アウトはいらない」が拡散し、「審判の権威ではなく、公平な判定を最優先に」との声が上がっている。NPBは追加カメラ配備と運用手順の見直しを表明したものの、リプレーセンター方式の導入時期や詳細についてはまだ明言していない。
映像技術が格段に進歩した現代、誤審を「人間味」で片づけるのはもはや通用しない。高木氏のような提案、審判側の危機感、ファンの声、三者一体で迫る次代のジャッジシステムが、プロ野球の信頼回復のカギを握っている。
(ケン高田)