今季、広島カープの打線が大きな変革を見せている。これまでの「好球必打」の早打ち一辺倒から、大胆に「粘りの選球」を重んじるスタイルへと舵を切ったのだ。追い込まれてもボールを見極め、四球で出塁することで相手投手に球数を投げさせ、制球を乱す。そうした攻め方は、まるで岡田政権時、四球査定導入直後の阪神タイガース打線を思わせる。
振り返れば4月18日の阪神戦では、2回にわずか1イニングで54球を投げさせ、村上頌樹を苦しめる粘りの打撃。菊池涼介の適時二塁打を皮切りに、会沢翼や二俣翔一がフルカウントから粘りに粘って四球を選び、打線がつなぐ形で一挙5得点を奪った。その粘りは「ゴキブリ野球」と呼ばれ、賛否を呼んでいる。
このスタイルには、対戦投手も思うところがあるようだ。DeNAのトレバー・バウアーは自身のYouTubeで、本音を爆発させている。
「こいつの目的は四球を取ること。ただただ球数稼ぐ」
「まさにその通りにやられてる。ヒット狙う気ないくせに、球数だけ稼がせてくるやつ、ホント厄介」
「で、またフォアボール。マジうざい。ヒット狙ってすらない打席とか超イラつくわ」
これは5月9日の登板を振り返り、イライラがMAXに達した様子を赤裸々に語ったものだ。
この攻め方の利点は、安打に頼らずとも得点機会を作れる点にある。事実、昨季平均1.97だったチーム四球数は今季、2.62に大幅アップし、出塁率向上が得点力に繋がっている。新井貴浩監督も「うちらしい、いい攻撃」と評価し、「四球アップ作戦」を続行中だ。
もっとも、球界全体で試合時間短縮が強く求められている中、この粘り型野球はそれに逆行している、との指摘がある。メジャーリーグではピッチクロック導入などで平均試合時間を2時間半前後に抑える改革を断行し、日本球界も導入を検討している。そんな流れの中、1打席あたり20球も要する打撃スタイルは、相手チームだけでなく、ファンの反感を買いやすいといえよう。
とはいえ、
「日本のバッターは追い込まれてからファウルを打つ技術が本当に高い」
とリスペクトを忘れなかったバウアー。賛否両論ある広島の粘り打法だが、今季は長打力も大幅に向上しているだけに、場面に応じて攻めのスタイルを切り替えていく必要がありそうだ。
(ケン高田)