オフシーズンの静寂を突き破るように、Bリーグ「広島ドラゴンフライズ」から衝撃発表が飛び込んできた。
6月17日、公式サイトで中村拓人との来季以降の複数年契約を解除し、6月30日付で退団、他クラブへ移籍すると発表したのだ。大東文化大学出身の24歳ポイントガードは、今年5月20日に来季契約継続が公表されたばかり。それからわずか1カ月での方針転換となった。
中村は2021-22シーズンに特別指定選手として広島に加入し、2023-24年シーズンにはチーム初のB1優勝に貢献。今季(2024-25)は57試合出場で平均23分48秒、9.2得点をマークして、日本代表候補に選ばれている。
移籍の背景には本人の「一度きりの人生、成長を求めて新たな舞台へ挑みたい」という強い意志がある。代理人との交渉は平行線をたどり、岡崎修司GMは「残り契約に対する違約金を選手が支払う形」で移籍を認めると説明した。手続き自体はB.LEAGUE規約の範囲内だが、「エース候補」の電撃退団に、チームは深刻なダメージを負うことになりそうだ。
中村はクラブを通じて「広島で培った経験を胸に、新天地でも全力を尽くす」とコメント。しかし「契約発表直後の解除は裏切りだ」「ドラフト制度が形骸化する」といった批判が噴出し、ブースターの失望と憤りは根強い。
気になる移籍先だが、安定した司令塔獲得が課題とされている群馬クレインサンダーズのほか、複数のチームが取り沙汰されている。もし同一リーグ内での移籍となれば、直接対戦で広島ブースターの怒りが爆発する可能性は大いにあろう 。
今年6月には仙台89ERSのヤン・ジェミンが5月11日の契約継続発表後、6月13日に移籍を公表する「契約継続⇒即移籍」の事例が発生。同様の流れが常態化すれば、ドラフト指名選手やブースターの信頼は大きく揺らぎかねない。現行制度には複数年契約選手の途中放出を抑える明確なルールや罰則がなく、早急な制度見直しが求められる。
広島は2026年秋開幕予定の新リーグ「B.LEAGUE PREMIER」を見据え、中長期的な戦力構想を立て直す必要に迫られている。若手育成か外国籍選手補強か、去り際の後味の悪さはチームに重くのしかかる。ファンの怒りが収まるのは、チームが新体制で勝利を重ね、本来の強さを取り戻した時だろう。
(ケン高田)