韓国は世界有数の美容王国として知られている。事実、首都ソウルには美容整形外科クリニックが軒を連ねる、名物ストリートが数多く存在する。
背景にあるのは、ルッキズム(外見至上主義)への傾倒である。韓国では過酷な競争社会を象徴する高学歴や高収入などへの強いこだわりに加え、容姿をはじめとする「見た目」への関心や執着もまた、異常なまでに根強いのだ。
その韓国で今、育ち盛りの子供を持つ親をターゲットにした「高身長ビジネス」が大きくクローズアップされている。
高身長は就職活動でも有利に働く――。そんな親心に応えるニュービジネスで、ソウル市内では子供の身長を伸ばすための「ジム」や「クリニック」が急増しているのだ。全国紙外信部記者が事情を明かす。
「中でも過熱の一途を辿っているのが『高身長クリニック』で、『成長ホルモンを定期的に注射すれば子供の身長は伸びる』と宣伝しています。費用は月6万円から7万円と高額ですが、自宅での自己注射も含めて、成長ホルモン注射を望む親はあとを絶ちません」
そんな中、高身長ビジネスに対する懸念の声が上がり始めた。韓国の小児科医らで作る医師会は「成長ホルモン注射による健康被害がすでに報告されている」とした上で「安易な成長ホルモン注射は末端の肥大症や骨の変形など、子供に深刻な合併症を引き起こす危険性がある」と警告しているのだ。
日本小児内分泌学会所属の専門医も、次のように警鐘を鳴らしている。
「日本の場合、成長ホルモン注射の使用は成長ホルモン分泌不全性低身長症など、安全性が確認されている8つの疾患に対してのみ認められています。逆に言えば、対象疾患以外の病気を持つ子供や、単なる低身長の子供に施注すると、身長を伸ばす効果が得られないばかりか、有害となる可能性が指摘されているのです」
投与量が多すぎるなど不適正に使用した場合、左室肥大や耐糖能障害などの重大な副作用が発現する危険性があるというから、コトは穏やかではない。同様の施注を自由診療で受けることができる日本とて、他人事ではないのだ。
(石森巌)