24年の特殊詐欺被害額は約720億円と過去最悪の数字を叩き出している。そんなある日、本誌記者のもとにも、1本の電話がかかってきた‥‥。
登録がない「080」から始まる携帯番号から電話がかかってきたのは、出勤準備をしていた午前8時過ぎのことだった。
出てみると、相手は開口一番「●●さんのお電話で間違いないですか」と、記者の実名を言い当てる。認めると、次に早口でこんな内容のセリフを放った。
「私は福岡県警の▲▲と言います。徳島県での事件に関して、警視庁と合同捜査をしています。●●さんに容疑がかかっていて、身分証を持って徳島県警まで出頭してもらいたい」
もちろん、まったく身に覚えのない話だった。詳細な説明を求めると、相手は、
「わかりました。ご説明しますので、ここからの会話は録音させてもらいます」
記者もそれに応じて、
「では、こちらも録音させていただきますね」
と返すと、次の瞬間、相手は通話を切ったのだ。
どう考えても特殊詐欺の類いだろう。ただ、この流れでどうやって記者から金を巻き上げるつもりだったのか、見当がつかない。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト・多田文明氏に話を聞いてみると‥‥。
「実は去年頃から、警察を名乗る特殊詐欺が猛威を振るっています。この件は、録音されると詐欺の証拠が残るので、『コイツはダメだ』と諦めたのでしょう。こうした特殊詐欺の犯人は自分の言うとおりになる人を狙いますから」
すんでのところで特殊詐欺被害から逃れられたようだ。では、記者が唯々諾々と従っていたとしたら、どのような展開が待っていたのだろうか。
「何か理由をつけて『LINEで話そう』と言われたはずです。ビデオ通話にして、制服姿や警察手帳を見せられたでしょう。名前と電話番号が一致し、そうした姿を見せられたら信じてしまう人は一定数いますから。そして、マネーロンダリング容疑での逮捕状を見せてきたと思います」(前出・多田氏)
警察官のコスプレや逮捕状もどきの作成など、かなりの準備をして電話をかけてくるのが今どきの特殊詐欺だというのだ。マネロン容疑にしても、「知らぬ間に巻き込まれた」というテイにして、被害者の不安をあおっているのだ。
「最終的には『保釈保証金にいくら必要だ。無実ならば戻ってくるから』という要求があったはずです。『守秘義務があるから誰にも言うな』とも。あるいは口座情報を聞いてきたりしていたかもしれません」(前出・多田氏)
警察がLINEなどに誘導して捜査をすることは絶対にない、と広報されているものの、いざ我が身に降りかかったら、震え上がって言われるがままになることも少なくないという。多田氏も、「ネット通販で物を買ったり、何かに会員登録したりする機会が多い現在、個人情報は漏れているものと覚悟したほうがいい」と語るとおり、自衛の必要性を強く感じざるをえない体験となったのだ。