この報道を目にした時、あまりの驚きで椅子から転げ落ちそうになってしまった。そう思いつつ、あの人なら…と妙に納得する気持ちにもなったものである。かつて内閣総理大臣だった森喜朗氏をめぐる、仰天ニュースだ。
当時の森氏は「神の国発言」などの舌禍騒動でなにかと物議を醸し出していたが、2000年5月5日、アメリカのビル・クリントン大統領と首脳会談に臨んだ。
森氏は英語に不慣れなこともあり、側近からは、
「会ったらまず『How are you?(ご機嫌いかが)』 と言って握手をしてください。クリントン大統領は『I'm fine, and you?』と答えますから『Me too(私もです)』 と続けて下さい。あとは全て通訳が対応いたします」
とアドバイスを受けていたというのだ。
ところが何を勘違いしたのか、森氏は「Who are you?(あなた誰?)」と挨拶。すると、ジョークだと思ったクリントン大統領が「Oh, I'm Hillary's husband(ヒラリーの夫です)」 と切り返したというのだ。森氏はアドバイス通りに「Me too」と続け、その場が凍り付いたのだと…。
いやはや、これが事実であれば、森氏の英語力の低さうんぬん以前に、日本人の英語レベルそのものが世界に疑われてしまう。
この件を最初に報じたのは、7月14日付の「株式新聞」。その後「フライデー」「日刊ゲンダイ」などが追随し、各メディアでも一斉に報じられることとなった。
森氏は当初から、この報道を「悪意のある捏造記事」として完全否定。
「いくら私が英語が得意ではなくても、そんなことを言うわけがない。それが私個人への誹謗中傷で済むならいい。(中略)しかし、そういう報道が日本の総理大臣、ひいては日本そのものを貶めているのだということを考えてほしい」
憤懣やるかたない様子だったのである。
ところがこの話には、トンだ「オチ」があった。実は毎日新聞の記者が、英語が苦手な韓国の金泳三大統領を皮肉るジョークとして「これ、森さんに替えても使えるよね」と外務省記者クラブで言ったところ、それが瞬く間に記者たちの間に広がってしまった、というのが真相だと発覚。
火のないところに煙は立たずとはいうものの、森氏にはなんとも気の毒な顛末。日頃の言動が国民の多くに「森さんなら言うかもね」と思わせた、前代未聞の大放言騒動だったのである。
(山川敦司)