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記事全文を読む→二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈新庄剛志の“筋書きのないドラマ”〉
「阪神 VS 巨人」セ・リーグ公式戦/1999年6月12日
MLBでは「故意四球」のことを「インテンショナル・ウォーク」という。
2017年に導入された「申告敬遠」は「オートマティック・インテンショナル・ウォーク」、または「ノーピッチ・インテンショナル・ウォーク」と呼ばれる。
MLBから遅れること1年、NPBでも申告敬遠制が導入された。この制度は、監督が審判に意思表示をするだけで打者を一塁に歩かせることができるというもの。試合時間の短縮を目的としていた。
NPBもMLB同様、試合時間の短縮が焦眉の急だったため、関係者には概ね好意的に受け止められた。
とはいえ、同制度の導入に反対する意見も少なからずあった。そのほとんどは「野球は筋書きのないドラマ。それが生まれなくなってしまう」というもの。
かつて巨人の長嶋茂雄は敬遠に抗議し、ボールが先行した後、素手で構えたことがある。
「お客さんは敬遠を見に来ているんじゃない。バットを振るところを見に来ているんだ」
また阪神時代の小林繁は、敬遠のため左打者に投じたボールが、大きく三塁側にそれ、「敬遠暴投によるサヨナラ負け」という珍しい記録をつくった。
だが、筋書きのないドラマの極め付けと言えば、このシーンにとどめを刺す。
1999年6月12日、甲子園球場での阪神対巨人戦。阪神は川尻哲郎、巨人は斎藤雅樹の先発で始まった。
試合は4対4で延長に突入し、12回裏、阪神は1死一、三塁と一打サヨナラのチャンスをつくる。
巨人のマウンドは7人目の槙原寛己。打席には4番の新庄剛志が入った。
この日、新庄は当たりに当たっていた。8回の同点ソロホームランを含め、この打席まで5打数3安打1打点。巨人ベンチが満塁策を取るため、バッテリーに敬遠の指示を出したのは当然である。
1ボール後に新庄は一塁側ベンチを向き、柏原純一打撃コーチと目配せした。それは「敬遠球を打ってもいいか?」という最終確認だった。
柏原が新庄の意向を野村克也監督に伝えると、「あの目立ちたがり屋が‥‥」と言って絶句したそうだ。
「ああ、打ってもいいよ」
ノムさんは「よきにはからえ」という諦めにも似た心境だったに違いない。
2球目を前に捕手の光山英和は再び立ち上がった。
槙原が投じたボールは、なんの変哲もない外角高めのストレート。まさか敬遠で変化球を投げるピッチャーはいない。
左足を大きく踏み込んだ新庄は敬遠球を上から叩いた。打球は三遊間を破り、三塁走者の坪井智哉が本塁を駆け抜けた。
殊勲の新庄は一、二塁間でもみくちゃにされ、自ら手を叩いてベンチに戻った。ノムさんにお尻をポンと叩かれ、上機嫌でお立ち台に上がった。
「ショートがセカンドベースにくっついていたので、もしかしたら(三遊間方向に)ゴロを打てばサヨナラになるかなと‥‥」
実は新庄、敬遠に備えて3試合ほど前から“クソボール”を打つ練習を繰り返していた。
テレビでは「僕、4番打っていてめちゃくちゃ調子よかったので」と秘密練習の意図を明かしている。
“筋書きのないドラマ”の筋書きを描く男、それが新庄である。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森喜朗 スポーツ独白録」。
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