事件
Posted on 2025年10月05日 10:00

佐藤誠「取調室の裏側」〈殺人事件を「自殺」と発表した警察の「自主的」な行動原理〉

2025年10月05日 10:00

 前回、23年7月に「週刊文春」が報じた「木原事件」について紹介したが、俺が憤怒したのは、警察上層部のふざけた対応だった。

 事件の概要はこうだ。

 06年4月10日未明、東京都文京区の住宅で安田種雄さんが不審死した状態で発見された。しかし管轄の大塚署は「覚醒剤乱用による自殺」と判断。18年に再捜査となり、俺も捜査に関わることになった。人間関係が複雑な事件なので、相関図を参考にしてほしい。

 重要参考人・X子と対峙しホンボシの存在まで摑むも、18年10月に捜査中止が命じられた。「一切もう触るな」と闇に葬られた事件は「週刊文春」によって再捜査の存在が明るみに出る。X子が岸田文雄総理(当時)のブレーン・木原誠二氏(55)の妻となっていたことから大騒動になった。その件を記者会見で問われ、露木康浩警察庁長官(当時)は、こう答えた。

「証拠上、事件性は認められない」

 警察組織のトップのでたらめな発言に俺は耳を疑う。明らかに殺人事件なのに、自殺で処理して事件を握り潰したのだ。そもそも露木長官に殺人事件の捜査経験はなく何も知らない。自殺など戯言で、ならば証拠を持ってこいという話。

 しかも事件性の有無の判断は検察の役割で、警察が結論づける立場にはない。司法システムへの冒瀆だ。異常なのは、殺人捜査のプロ警視庁捜査一課の国府田剛課長(当時)まで、同じ旨のコメントを残したこと。

 もはや呆れるしかない。

 捜査中止と木原誠二氏の関与について真偽は確かめようがないが、「木原事件」で実感したのは、警察組織の腐敗だ。

 国民の安全な生活を守るというのは建前で、警察組織の本音は権力者の顔色と立場を守り、自分たちのメンツを保つことにある。

 政治家が警察の人事に関与することは法的に制限されているが、実際は影響を与えていて、政治家本人や親族が事件を起こせば、穏便に処理するのが現実だ。深刻なのは「政治の圧力」ではなく、警察が「自主的」に行動していることだ。

 警察庁の予算は国会の承認が必要なので、仲良くしないと削られる。キャリアにしたら天下りのパイプを潰すわけにはいかないから組織防衛に向かう。

 警察出身で内閣官房副長官に就任した者はゴロゴロいて、昔から与党には逆らわない文化がある。これが腐敗の構造であり、露木氏と国府田氏のコメントの裏側だ。次回は「木原事件」を巡る政治との関係にもう一歩踏み込んで、警察の闇を詳らかにしよう。

佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。

佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/

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