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記事全文を読む→【猫の名作】夏目漱石門下の内田百閒「ノラや」を読んで涙が出た「いなくなった猫を待つ」溢れる猫愛
夏目漱石の「吾輩は猫である」をいつも持ち歩き、10分程度でも時間ができた時にパラパラと読むことが多い。「吾輩は猫である」はいつ、どこから呼んでも面白い。その流れでずっと気になっていたのは、漱石門下の内田百閒だ。
猫への愛着はつとに有名で、飼っていた猫「ノラ」が帰ってこなくなり、新聞に「猫ヲ探す」という折り込み広告を入れた話で知らている。いなくなったノラのことを書いた愛猫随筆集「ノラや」(中央公論新社)を購入し、読んでみた。
すると…読んでいるうち、泣けてきた。百閒は「阿房列車」シリーズなどで有名な作家だ。世の中を皮肉っぽく、ユーモアたっぷりに考えている人かと思っていたのだが、猫への溢れるような愛情は意外、驚嘆である。
百閒が出した折り込み広告の書き出しは〈猫ヲ探ス その猫がゐるかと思う見當は麹町界隈 三月二十七日以來失踪す〉(1957年4月12日)。オス猫で〈薄赤の虎ブチに白毛多し〉と特徴を書いている。
百閒の観察力には舌を巻く。例えばノラの寝姿については、
〈風呂蓋に寝そべっている猫の寝相を見ると、傍若無人である。蓋の桟を枕にして小さな三角な頭を載せ、四本の脚を伸ばせるだけ伸ばして大の字になっている〉
仰向けに寝ている時は、こんな感じだ。
〈むささびの様な恰好になって、脇の下を出しているから、くすぐってやったが平気らしい。人間のようにくすぐったがらない〉
猫が好きな理由についてはこう説明する。
〈三日の恩を忘れない犬よりも、猫のそのそっけない所がこちらにはいいので、恩を知られたりしては却って恐縮する。恩のやり取り、取り引きは人間社会で間に合っているからノラには御放念を乞う〉
どんなにかわいがっていたかがわかるのは、こんなくだりからだ。
〈もとの低い物置小屋の屋根から降りて来た野良猫の子のあんなに小さかったノラが、うちで育ってこんなになっている。それが可愛くて堪らない。『ノラやノラやノラや』と云って又さすってやる〉
目に入れても痛くない存在が、百閒にとってノラだったのだ。
ところがある日を境に、ノラは忽然と姿を消す。その日から百閒は寝ても覚めてもノラのことが頭から離れなくなった。涙が止まらず眠れなくなったことで、精神安定剤のような薬を処方してもらう。
…と、こうしてみると筆者にとって、「ノラや」はとても他人ごととは思えないのだ。なぜか。我が家で飼っている猫3匹のうちの1匹(クールボーイ・6歳)が家を飛び出した時は朝、昼、晩に加え、深夜も半径何百メートルを探し回った。外で物音がすると、帰ってきたのではないかと思って外に飛び出した。
保護猫のクールボーイをお世話してくれた知人が、捕獲機があることを教えてくれてからは玄関脇に仕掛け、ドアを開けたまま寝ずの番をして帰りを待ち続けた。そして戻ってきたのは1週間後。猫がいなくなって百閒が悲嘆にくれる様子は、我がことのようだ。
なお、戻って来るまでの一部始終は〈二度連れ戻された「脱走ねこ」の物語〉として、本サイトで連載しているので、ぜひ読んでいただければ。
ノラはその後、どうなったのか、興味がある人は「ノラや」を開いてみてほしい。
猫を擬人化した「吾輩は猫である」と門下の百閒「ノラや」の愛猫家ぶりは両極端。文豪によってこうも違うとは。やはり猫はとても奥深いのだ。
(峯田淳/コラムニスト)
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