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Posted on 2026年01月18日 18:00

「プロレスVS格闘技」大戦争〈大仁田が異種格闘技戦で前代未聞の反則負け〉

2026年01月18日 18:00

 68歳になった今も、電流爆破デスマッチを売り物にしている大仁田厚。左膝蓋骨複雑骨折(膝の皿が5つに割れる重傷)が完治せず、1985年1月3日に27歳の若さで全日本プロレスを引退したが、89年10月にFMWを旗揚げした後にデスマッチ路線で“邪道”としてブレイクして今日がある。

 そのFMW旗揚げの伏線になったのは、同年7月2日の後楽園ホールにおける第2回梶原一騎追悼興行「格闘技の祭典」で空手・誠心会館館長の青柳政司との異種格闘技戦だ。

 FMW旗揚げ前の大仁田はプロレスの夢を断ちがたく、アントニオ猪木の参謀だった元新日本プロレスの取締役営業本部長の新間寿氏が中心となって88年11月に結成された「格闘技連合」に参加していた。

 格闘技連合はブームを巻起こしていたUWFへの挑戦をぶち上げ、大仁田が新間氏の代理として同年12月22日のUWF大阪大会に挑戦状を持って乗り込んだものの、門前払いにされたのは有名な話だ。

 大仁田は89年に入ると「もはや上がるリングは自分で作るしかない」と、自力で新団体旗揚げを模索していたが、そのタイミングで格闘技の祭典へのオファーを受けた。

 対戦相手の青柳は78~81年に少年マガジンで連載されて大人気だった梶原一騎氏原作の劇画「四角いジャングル」にも登場した空手家。プロレスラーを志したが、身長が低いために断念し、高校を中退して働きながら糸東流空手を学んで22歳時の78年11 月に極真空手の「第10回オープントーナメント全日本空手道選手権大会」に出場して、他流派ながら128人中ベスト16 に入っている。

 80年2月27日の蔵前国技館における猪木VSウィリー・ウイリアムス以来、実に9年5カ月ぶりの“プロレスVS空手”は異様な空気に包まれた。舞台が格闘技の祭典だけに、試合前から空手家、空手ファンの「プロレスにナメられてたまるか!」という殺気が充満していた。

 だが完全アウェーの中で、アメリカ修行時代にテネシーでヒールとしてトップを張っていた大仁田は空手ファン、空手家たちを手玉に取ってみせた。

 第1ラウンドでは肩を極めにかかり、青柳が慌ててロープエスケープしても離さなかったために空手ファンがエキサイト。

 第2ラウンド、大仁田のエルボーバットで側頭部を直撃された青柳は左耳の鼓膜が破れてダウン。大仁田がレフェリーの制止を振り切ってダウンしている青柳を場外に蹴り落とすと、激高した空手家数人がエプロンに駆け上がり、士道館の添野義二館長が慌ててリングに飛び込んで空手家たちを制止して試合続行という場面が生まれた。

 第4ラウンド、大仁田は青柳を場外に投げ落とすと脳天にイスを振り下ろす暴挙! 異種格闘技戦でイスまで使ってしまうところが「プロレスは何でもありじゃ!」とする大仁田なのだ。

 さらにヘッドバットの連打で青柳を流血させたから、またまた場内はただならぬ空気に。制止に入ったレフェリーにもパンチを浴びせ、場外に放り出した大仁田に空手家たちが殺到!

 大仁田のセコンドは元たけしプロレス軍団TPGの秋吉昭二(現・邪道)、高山圭司(現・外道)、脇田洋人(現スペル・デルフィン)、そしてイギリスで自力デビューを果たし、日本での活躍を夢見ていた尾内淳(現ウルトラマンロビン)の4人だけで、多勢に無勢。

 この日の空手トーナメントで優勝した正道会館の佐竹雅昭が尾内に蹴りを入れ、脇田に摑みかかり、高山はのちにK-1グランプリにも出場する後川聡之と殴り合うなど大混乱。空手ファンまで暴れ出して、まるで暴動のようになってしまった。

 結果は当初、ノーコンテストと発表されたが、大仁田がレフェリーに暴行を加えたとして青柳の反則勝ちに訂正された。青柳の勝ちにしなければ、空手家たちも空手ファンも収まらなかっただろう。大仁田はアウェーでの異種格闘技戦を見事にプロレス色に染めてしまったのである。

 そして、ここで勃発した青柳との遺恨を利用してFMWを10月6日に露橋スポーツセンターで旗揚げ。ここで重要なのは団体名のFMWだ。正式名称はフロンティア・マーシャルアーツ・レスリングで、当初は総合格闘技団体だったのだ。

 大仁田が提示したかったのは「総合格闘技団体をプロレス流にやったら、UWFじゃなくてこうなる」ということ。その出発点が青柳との異種格闘技戦での反則負けだったわけだ。

 FMWはデスマッチ路線になっていったが、その理由を大仁田はこう語る。

「UWFが関節技で“これが本物のプロレスだ”ってリアリティを表現していたから、それに対抗したっていうのもあるよ。関節技が実際にどれだけ痛いのかなんて普通の人にはわからない。でも、有刺鉄線に引っ掛かれば痛いっていうのは誰でもわかる。その痛み、流れる血ほどリアリティのあるものはない。ある種、デスマッチ路線はプロレスのリアリティの追求としてスタートしたんだよ」

文・小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング」編集長として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)などがある。

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